2018年1月29日月曜日

『Garden of the Light』Kieran Murphy

 2011年。キーラン・マーフィによる3枚目のソロギター・アルバム。
 穏やかに奏でていたり、ファンキーに弾いていたり、激しくかき鳴らしていたり、また、小曲から長い曲までいろいろと20曲収録されている。そのどれもが音が立っていて、立体感にあふれており、ギターの生音がすごく気持ちいい。強弱というかリズムというかそういうのが絶妙で、とってもグルーヴィーな音楽を聴かせてくれる。ギターの音は決してきれいな音ではなく、むしろちょっととんがった雑音の混ざった音だったりするのだけれど、それが逆にライヴ感を漂わせていてとてもいい。何といっても味がある。このアルバム、大好きです。

2018年1月28日日曜日

『憲法と世論』境家 史郎

 筑摩選書。副題「戦後日本人は憲法とどう向き合ってきたのか」。
 戦後行われた、新聞社、通信社、NHKなどによる1200件を超える世論調査を元に、その間日本人は憲法に対してどのような世論を形成していたのかを探る本である。著者の立場は中立的で、憲法に対する私見は極力はさまずに、調査結果のデータを客観的に分析している。
 日本国憲法が戦後70年にわたって変更することなく続いたのは、日本人に憲法を受け入れる素地が整っていたからだと思われがちだが、データからは必ずしもそうではないということが明かされる。高度成長期こそ改憲論議は活発ではなかったが、それ以外の時期は意外と改憲を求める声が多かったようだ。また、現在では改憲といえば憲法第9条に関するものが中心だと思ってしまうが、その他にも天皇制、統治制度(首相公選制など)、環境権、憲法改正発議の条件など、多くの論点が時代時代により入れ替わり立ち替わり俎上に上がってきたことが明らかになる。改憲派を形成していたのが誰かについての分析もおもしろい。戦後すぐの時期においては、今では護憲派の急先鋒である共産党が一番の改憲派であったことは興味深い。また、世論調査における質問の仕方として、憲法一般の改正の意見を問うものと、憲法の特定の条文の改正の意見を問うものとがあるが、前者の問いについての問題点を指摘している。マスコミによる報道の影響や、エリート層(政治家、学者など)の意識と国民の意識との関連性についても検討している。
 憲法を変えるべきか、それとも変えぬべきかという見方ではなく、日本人が憲法をどのように見てきたのかという観点から論じた本として、本書は新しい視点を与えてくれる。改憲派であれ護憲派であれ、本書に目をとおすことによって、戦後の日本人の憲法観の変遷ををたどることは有益であると考える。

2018年1月22日月曜日

『ギターで覚える音楽理論』養父 貴

 リットーミュージック。副題「確信を持ってプレイするために」。
 ギターは弾けるけど鍵盤楽器が弾けないという人にとっては、ふつうの音楽理論の本はなかなか難しい。というか、書かれている理屈はわかるが、それをギターに応用して理解するのが難しい。ギターの弦は6本しかなくて、音の高さを決めるのは左手だけという制約があるからだ。そこでこの本の登場である。ギターに特化していて、ギターを弾きながら音楽理論が学べる。音楽理論をどのように実際の曲に応用していけばいいのかがわかる。タブ譜がついているのもわかりやすい。
 とはいえ、実際には結構難しい本だ。譜面の読み方とか音程の度数の数え方、キーなどの基本的なところはすっ飛ばしている。ギターの指板上のどこを押さえれば何の音が出るのかは当然知っていてしかるべきという立場だし、テンションを含めたある程度のコードの押さえ方は知っているものとして説明している。そこのところがまだまだという人は、もっと初学者向けの本を読むべきだろう。ただ、ピアノなどを長年弾いてきて音楽理論も大体わかっていて、単にギターを始めたばかりだからギターへの応用がわからないというだけの人には、いい本であろうと思う。理論を適当にごまかしてわかりやすく解説しているのではなく、きちっとポイントを押さえてごまかさずに解説してるからだ。ギターの特性を踏まえた上で、どう音楽理論を適用してギターを弾けばよいかがちゃんと書かれている。
 本書でも述べられているが、ここでいう理論とは西洋音楽の理論である。だから、ブルースなどは音楽理論からすると例外的な存在で、理論とは整合しないという。じゃあブルースは悪いのかといったらもちろんそんなことは言ってなくて、理論とは合ってなくても音楽的には間違いではないどころか、むしろかっこいいとさえ述べている。そんな理論とは合っていないブルースを、音楽理論的に解説しているところがまたおもしろいところでもある。音楽性というものは理論の先にあるものなのだということなのだと思う。でも闇雲に感性だけで音楽をやるよりは、音楽理論を知ることで音楽の引き出しが多くなるので、理論を勉強することに損はないということなのだと思う。
 私は一度読んだだけでは頭に入ってこなかった部分が多かったけれど、今後辞書的に何度もこの本を見返すことで、しっかりとした知識を身につけていきたいと思っている。音楽理論については、この本一冊を持っていれば私のレベルでは十分である。

2018年1月20日土曜日

『有象無象百楽繪 vol.5 冬』大通美術館

 通算5回目となる針槐の会のグループ展が、2018年1月23~28日に札幌市にある大通美術館で開かれます。展覧会名は「有象無象百楽繪(うぞうむぞうひゃくらくかい) vol.5 冬」。
 私は「詩月あき(しづきあき)」として数点出品予定です。このブログに掲載したものがほとんどですが、1点だけ新作があります(基本的に絵を描いたらすぐにブログにアップしちゃうので、このブログでの発表がいつも最初になってしまってます)。
 毎回参加者に変動はありますが、前回22名だったのが今回は10名と、半分以下になりました。それで会場は若干狭くなりましたが、それでもアクリル、水彩、切り絵など、多彩な作品が集まる予定です。実は展覧会名はそんな何でもありという状態を表していたりします。私は体調不良のためほとんど在廊できないですが、お近くにおいでの際は是非お越しください。

大通美術館」札幌市中央区大通西5丁目11大五ビル
針槐の会ホームページ

2018年1月18日木曜日

『森のノート』酒井 駒子

 筑摩書房。
 絵本作家である酒井駒子による初の画文集。右ページにタイトル、左ページに著者の絵があって、ページをめくると見開きでひとつのエッセイが書かれている。それが36編つながって、この本ができあがっている(絵は36よりも多く収録されているけれど)。絵とエッセイの内容はあまり関連性が無いように感じるが、もしかするとそれは私の読みが甘いせいであって、実は深いところでつながっているのかもしれない。都会と山の家を行き来しながらも、主役はやっぱり山の家である。昆虫や動物、植物の固有名詞がたくさんでてくる。接続詞を使わずに淡々と文を連ねていく彼女の文体は、読者の理解にとっては親切ではない。けれども、そうやって目の前の情景を綴っていくことが、逆に読者に新鮮な感覚を与えている。一見関係がないかのように思えるふたつの文をつなげる作業を読者に委ねることによって、一筋縄ではいかない自然の摂理に気づかせてくれる、そんな気がする。
 黒い下地の上に絵の具をさっと重ねていく彼女の絵に描かれた子供たちは、静謐な画面の中でほとんど声を発していないけれど、iPhoneに搭載されたLIVE動画のように動きの中にいる。その動きから、声は聞こえなくとも子供たちの感情が伝わってくる。
 酒井駒子のファンであれば、一冊手元に置いてあってもいい。

2018年1月17日水曜日

『優品阿里山金萱高山茶』遊茶

 ゆうひんありさんきんせんこうざんちゃ。台湾の青茶で、金萱種の茶葉を使用した阿里山高山茶。金萱種は台湾で1980年代に開発された比較的新しい品種。
 さわやかでキリッとした印象ながら、乳香と呼ばれるミルクのような甘い香りも同居していて、とてもおいしい。飲んだ後に舌の奥に残る回甘(ほいがん)といわれる感覚もなんだか贅沢さを演出していて、その余韻がまたたまらない。お湯を入れる前のころころとした丸い茶葉の形が揃っていて、見た目にも美しい。阿里山高山茶は今までにも何度か口にしたことがあるけれど、これはその中でもかなりおいしい。

遊茶』東京都渋谷区神宮前 5-8-5

『エルサルバドル・モンテシオン(2017)』横井珈琲

 El Salvador Montesion。エルサルバドルのモンテシオン農園のコーヒー。
 中煎り。はじめ口に入れたときはあまり酸味を感じないけれど、時間が経つと口の中にオレンジやチェリーのような爽やかな酸味が拡がっていく。口に入れた直後はナッツ系の風味を感じる。高級感はないものの、バランスのとれた飲みやすいコーヒー。

工房 横井珈琲

2018年1月14日日曜日

『Vu Jà Dé』細野 晴臣

 2017年。
 「ヴジャデ」は「デジャヴ」とは逆の意味で、「よく知っている事柄を初めて体験するような、新鮮な感覚」のことをいうのだそうだ。細野の音楽傾向は1940年代のポピュラーやジャズに向いている、と本人が語っているが、それらの曲が新鮮な感覚で今よみがえってきているということなのだろう。このアルバムは2枚組だが、合わせて53分なので、1枚に収めようと思えば収められた。それを敢えてしなかったのは、カヴァーとオリジナルが同居できないというジレンマを解消するためだったのだという。そこで、1枚目(Eight Beat Combo)は外国のヴギウギやロカビリー、ラテンのカヴァーとなり、2枚目(Essay)がオリジナル曲からなるという構成になっている。後者にはCMや番組等で使われたものも多い。
 なんだろう。とてもやさしい気持ちになる。彼の声がそもそも木訥としてやさしいのだが、それだけでなく、バックも含めてすべてがなんだか暖かい。テクノっぽいアプローチをしている曲もあるのに、不思議である。音楽には人柄が現れるのだろうか。
 NHKの『2355氏、帰る』と、青葉市子と歌っている『悲しみのラッキースター』が、ちょっと意表を突かれてうれしかったりする。

『デジタルイラストの「塗り」事典』NextCreator編集部

 SB Creative。副題「CLIP STUDIO PAINT PROで描く! 多彩な描画のテクニック56」。
 11人の絵師による、デジタルイラストの「塗り」の方法を解説した本。掲載されている「塗り」は、アニメ塗り、ブラシ塗り、水彩塗り、厚塗り、発光塗り、ギャルゲ塗り、透明水彩塗り、アナログ風塗り、和風塗り、配色、エフェクトの11種類。それぞれ一人のイラストレーターが担当している。背景の描き方については触れていなくて、すべて人物を描くことに特化している。
 アナログの絵ばかりを描いてきた私にとっては、デジタルで絵を描くといってもどこからどう手をつけていいのかよくわからない。例えばアナログ風塗りといったって、この本で説明しているように、ふつうのアナログで絵を描くのとは全然考え方が変わってくる(できあがりは同じように見えたとしても)。目の描き方や服の描き方なども丁寧に順を追って説明されているので、初心者にとってはとてもありがたい。個人的には、ブラシ塗り、水彩塗り、透明水彩塗り、アナログ風塗り、和風塗りを試してみたい気に駆られた。私にとってはとても参考になった。

2018年1月13日土曜日

『ロバート・ライシュ 格差と民主主義』 ロバート・B・ライシュ

 東洋経済新報社。雨宮寛、今井章子 訳。
 原著は2012年、オバマ大統領の1期目の頃に書かれた。その頃のアメリカの格差と民主主義の現状について告発している。
 (実は本書について、私にしては珍しくかなり長文の読書案内を時間をかけて書いた。しかし、パソコンのハングアップによってすべて失われてしまった。そして、今の私にはそれらの長文を再現する気力はもう残っていない。というわけで、以下、さらっと紹介してやめます)
 アメリカの上位400人の保有する富が下位半分の1億5000万人の富よりも多いという事実を見てわかるように、アメリカの格差はとても大きい。所得の最高税率が一時期90%を超えていたものが今では30%台である。これからも格差は広がっていきそうな気配だ。その原因として、民主主義が壊れかけていることを著者は指摘している。富裕層や企業、ウォール街が政治に対して多額の献金をしたりロビー活動をしたりして、彼らに有利な税制、社会構造を作り出しているのだという。そのようにして減少した税金は、中間層以下の人々に重要な、教育、健康への公的支出を減らすことにつながっている。こうして、格差はますます広がっていく。この事実を踏まえた上で、米国民にできることは何かを提示している。それは選挙で投票するだけのことではない。ふだんからできること、やるべきことがあるのだ、と。
 この本が書かれた数年後、トランプ政権が生まれた。トランプ氏を支持したのは主に、今挙げたような貧乏くじを引いてしまった中間層だといわれている。では、現在トランプ氏は彼らのためになる政策を行っているのか。私にはどうもそうは思われないのだが、それについては本書の範囲外である。著者はトランプ政権誕生直前に『最後の資本主義』 という本を上梓していて、もしかするとその辺の事情が書いてあるかもしれない。ライシュ氏の言動には、今後も注視していきたい。

2018年1月8日月曜日

『Just Passing Through』Ian Cooper, Ian Date & Tommy Emmanuel

 2015年。イアン・クーパーがヴァイオリン等のストリングス、イアン・デイト、トミー・エマニュエルがギターのご機嫌なスウィングアルバム。ナイジェル・デイト(Nigel Date)のギターとアレックス・ボーンハム(Alex Boneham)のダブルベースも参加している。
 『Smile』『Georgia on My Mind』『Nuages』などはしっとりと落ち着いた雰囲気を醸し出しているけれど、それ以外は乗りに乗っている。ヴァイオリンがとてもいい味を出していて、スウィングしてる感じを一層強めている。全体的に、ところどころトミーのものと思われる声がメロディに乗って入っていて、楽しんで録音しているのが伝わってくる。『Blues for Tex』は1990年代の曲だけど、それ以外は全部1940年以前の曲。私は詳しくはないけれど、ジプシー・ジャズってこんな感じのをいうのかな、と思ってみたり。楽しいアルバムです。

2018年1月3日水曜日

『エチオピア・リム・ゲラ(2017)』横井珈琲

  Ethiopia Limu Gera。エチオピアのゲラ農園のコーヒー。リム地区のゲラ農園だと思うのだけれど、横井珈琲のホームページには「ジンマ地区ゲラ リム」と書かれていて、実際にどちらが本当かはわからない。エチオピアの農園は小規模なものが多く、多数の農園のコーヒー豆が同じ生産処理場で一緒に交ぜられることが多いらしい。それに対してこのゲラ農園は、農園内に生産処理場を持っており、エチオピアでは珍しく単一農園のコーヒー豆を世に出すことができるのだという。
 やわらかな舌触りで、口の中に芳醇なコーヒーの甘みが拡がる。深煎りのせいかやや苦味が勝っているもののそれほど強いわけではなく、酸味も穏やかだ。コクがとてもあって、味が落ち着いている。甘く熟した温州ミカンのような雰囲気がある。このやわらかい甘みが実にいい。エチオピアのコーヒーはとても久しぶりに飲んだけれど、なかなかいい。

工房 横井珈琲

『Always, Francesca』Kieran Murphy

 2011年。キーラン・マーフィー。
 数曲で女性の声やパーカッションが混じっているけれど、基本的にはソロギター・アルバム。ちょっと荒々しいタッチで、きれいな音を奏でるというよりは、ささくれだった棘のある男っぽい音を出す(こういう表現をするとジェンダー的にアウトなのだろうか。悪気はないです)。この力強さのせいか、目の前で生ギターを情熱的に弾いてくれていうような感覚に陥る。前作の『Per Se』に比べて音楽的に拡がりを持ったようにきこえるのは、もしかするとその間にアメリカのバークリー音楽院で学んでいたという経緯もあるのだろうか。最近流行りのニューエイジ系とは一線を画した、一本勝負の骨太のギター演奏を聴かせてくれる。

『大人のための国語ゼミ』野矢 茂樹

 山川出版社。
 人に伝わる文章を書くのが苦手。文章の内容をうまく捉えられない。質問にうまく答えられない。議論をしていてもなかなか結論まで行かない。相手の言うことは変だと思うのだけれどうまく反論できない。そんな悩みを持っている大人に向けて国語の授業をしよう、というのが本書のコンセプトである。
 ちょっとわかりづらい文章を書き直す問題、接続詞の使い方を問う問題、文章の幹を捉えるための要約の問題、他人の主張に反論する問題、あるいは質問する問題など、多くの問いから成り立っていて、その問題に答えていくことで国語力をつけてもらおうとしている。問題はなかなかに難しい。さらっと読み流してしまうとなんとなく意味が通じてしまうのだけれど、よく読むと変な箇所が紛れ込んだりしているという、絶妙な問題だらけなのである。問題の文章は、参考にしている文献はあるものの、ほとんどを著者が手がけている。目的としている国語力にピタッとフォーカスした問いを作るためである。見事である。
 著者は、「ゆっくり読み進んでほしい。(中略)せめて一週間、できれば一箇月はかけてもらいたい」と言っている。問題文を300字程度で要約せよ、なんて問題もあるので、きちんとすべてに真面目に取り組むと、結構な時間がかかるのだ。「大人のための」というタイトルではあるが、高校生、あるいは中学生といった学生にも読んでもらいたい気がする。美文を書くためのテキストとしてではなく、きちっと伝わる日本語を操るために、一読の価値がある。

2018年1月2日火曜日

『マンデリン・アルールバダ地区(2017)』丸美珈琲店

 Indonesia G-1 Alur Badak。
 名前のとおり、インドネシアのマンデリン・コーヒー。コクと苦味のあるコーヒーを飲んでみたかったので、久しぶりにマンデリンを買ってみた。もうかなり前のことだけれど、マンデリンかトラジャばかり飲んでいた頃のことを思い出す。
 期待を裏切らず、やわらかな苦味の中にしっかりとしたコクがあって、大満足。ボディがしっかり感じられて、なおかつその中に甘みもあり、ちょっぴりオレンジの皮みたいな風味も漂ってくる。とてもおいしいコーヒー。
 丸美珈琲店は2006年に札幌にできたスペシャルティ・コーヒーのお店で、できた当初は何度か通っていたんだけど、一時期ちょっと味が落ちたように感じることがしばらく続いたので、最近は違う店にメインで通うようになった。でも今回はとてもおいしく頂けたので、たまにはこの店で購入するのもいいかもしれないと思った。今では札幌市内に4店舗を数えるほど大きくなったし、もともと店主は世界的なコンテストで上位に入る実力者で、自力はあるはずなので。

丸美珈琲店