2017年7月26日水曜日

『日本語のレトリック』瀬戸 賢一

 岩波ジュニア新書。副題「文章表現の技法」。
 レトリックというと、つい「修辞」のことだと思ってしまうのだけれど、著者によると「レトリックとは、あらゆる話題に対して魅力的なことばで人を説得する技術体系である」らしい。「修辞」よりはもっと広い概念なのだ。といいつつ、この本ではこのレトリックのうち「修辞」に焦点を当てて、30種類のレトリックを解説しているのではあるが。
 山のような本、冷たい人、鍋を沸かす。ふだん何気なく使っている言葉にもレトリックが潜んでいる。もちろん文学作品にも多く使われていて、本書では、古くは平家物語や柿本人麻呂、最近では村上春樹や筒井康隆など多くの作品から例文がとられている。隠喩や直喩など馴染みのものから、緩叙法、撞着法、声喩なんていうあまり聞かないものまである。とはいえどのレトリックもたいていの人なら耳にしたことのある表現ばかりだ。無意識にこんなにたくさんの表現方法に親しんでいたのかと思うとびっくりする。そしてこれらは日本語特有のものではなく、どの言語にも見られるものなのだという。じゃあなぜこんなタイトルなんだと思ってしまうけれど、それはやっぱりこの本は日本語のレトリックについて書かれた本だからなんだろう。ジュニア向けと侮ってはいけない。文章表現はなかなかに奥が深い。

2017年7月22日土曜日

『Luna』Karlijn Langendijk

 2017年。カーレイン・ランゲンデイク。
 ソロギタースタイルのアルバムで、今までデュオとしては出していたことがあるけれど、ソロとしては初めてのアルバム。4曲しか入っていないミニアルバムだけれど、以前から彼女のソロギターを聴いてみたかったので別に構わなかった。全曲ガットギターを使っていると思う。YouTubeで初めて聴いたマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の『Beat It』のカヴァーも入っている。相変わらずグルーヴィーで引き込まれる。1曲目に入っているオリジナル『Triangulum』は、コンテンポラリーながらクラシカルな雰囲気もあって、ちょっと激しめに攻めているな、という感じだった。これら2曲が動を表しているとすると、対極の静を表現しているのがビリー・ジョエル(Billy Joel)の『Lullabye』のカヴァーと、オリジナルの『Luna』の2曲だ。ゆったりとしていて静謐な、とても落ち着いたアレンジになっている。そうやって丁寧に紡ぎ出されたギターの音は、アルバムタイトルそのものである。
 ミニアルバムながら、まったく違う雰囲気の4曲で構成されているので、飽きさせない。ただ、今後はどの方面の音楽を主体に目指して行くのだろう。オリジナルを聴くとクラシック・ギターという感じだけれど、カヴァーはポップ寄りだし。有名なギタリストではないのだけれど、これからも追いかけていきたい。

『Karlijn Langendijk』のホームページ

2017年7月19日水曜日

『規則と意味のパラドックス』飯田 隆

 ちくま学芸文庫。
 「68+57=?」と聞かれると、ふつう「125」と答える。でも彼は言う。「5だ」。「なぜ?」 。「この「+」はプラスではなくクワスだ。クワスとは、「+」の前後にある数字がどちらも57より小さいときは足し算で、それ以外のときは「5」になる関数なのだ」
 わけがわからないと思うだろう。私もそう思う。それなのに彼の言うことに反論しようとすると、いや、これこれこういう理由で5なのだ、と言いくるめられてしまう。相手を論破しようとしてもどうしてもできない。こんなに当たり前のことなのに。
 言葉、記号などの意味やその使い方は、当然わかったうえで使用しているとたいていの人は思っている。だけれど、突き詰めていくと意外とツッコミどころが満載で、言葉の意味って実はなんなんだろうと、よくわからなくなってくる。そんな不思議な規則と意味についての哲学的議論を、本書では主にクリプキによる『ウィトゲンシュタインのパラドックス』という本の内容をひもときながら展開していく。
 なかなかに込み入っていて難しい内容ではあるが、できるだけわかりやすいようにかみ砕かれていて、哲学的思考のめんどくささとおもしろさを同時に味わわせてくれる、刺激的で楽しい哲学入門書である。

2017年7月17日月曜日

『Back & Forth』Antoine Dufour

 2017年。アントゥワン・デュフール。
 2枚組CDとなっているが、どちらのCDにもまったく同じ曲がまったく同じ順番で入っている。1枚が「Acoustic」バージョン、もう1枚が「Electronic」バージョンである。このアルバムが家に届いてパッとジャケットを見たときに、てっきりアコギバージョンとエレキギターバージョンなんだと勘違いしてしまったのだけれど、違った。1枚目がソロギタースタイルのアコースティックギター・バージョンであることは間違いなかったが、もう1枚はコンピューターでバンドスタイルに仕上げた電子音楽バージョンだった。ほとんどの曲はアコギバージョンが先にできているけれど、いくつかは逆のパターンもあるという。そしてタイトルのとおり、両者を行ったり来たりしながら作製していったそうだ。私も彼にならって2枚を行ったり来たりしながら何回も繰り返し聴いている。
 ところがこの2枚のCDはメロディもコードも同じはずなのに、不思議と全然違う曲に聞こえる。雰囲気がまったく違う。メロディといってもメロディアスというよりはアンビエントな感じに寄っているので、曲に対するアプローチが異なると大きな違いが生まれるのかもしれない。アコギバージョンはバッキングの合間にハーモニックスでメロディを入れている曲が多い。対してエレクトトニック・バージョンはしっかり作り込まれていて、2000年以前の電子音楽のような雰囲気がちょっとあって、懐かしさを感じる。どちらも安定していて違った良さがあるけれど、私はアコギバージョンの方が好きです。

2017年7月10日月曜日

『文系人間のための金融工学の本』土方 薫

 日経ビジネス人文庫。副題「デリバティブ裏口入門」。
 デリバティブというとなんだかよくわからないけれど、難しくて危険な商品だ、なんて漠然と思っていた。オプションとかスワップとか、なんだろうかと。
 でもこの本を読んで、はまちスワップの話とかを聞くと、なんとなくでもデリバティブの基本のところがわかったような気がした。どういう目的でそのような商品が作られて、どういう風に設計されているのか。リスキーということが一般市民の間にすり込まれている感があるけれど、意外と合理的な考えのもとに作られた商品なんだということがわかった。後半はマーケットやリスクマネジメントの話もあって、興味深く読めた。
 ただ、文系人間のためであれば、もうちょっと数式とか数学用語とかを丁寧に説明してもらいたかった(素人目にはなんとなく数式が間違っているように感じた箇所もあったので)。丁寧に説明する紙幅がなければいっそのこと載せないとか。全体的にはとてもわかりやすい本だと思うのだけれど。

2017年7月2日日曜日

『async』Ryuichi Sakamoto

 2017年。坂本龍一(私が買ったのは輸入盤なので、タイトルではローマ字になっています)。
 一般には前衛的な部類に入るんだと思うけれど、そのわりには聴きやすい。アンビエントにはカテゴライズしたくない気もするが、そんな感じはある。いろいろな音が重層的に配置されて、いつものスピーカーで聴いているのに、いつも以上に自分の右だったり上だったりいろんなところから音が聞こえてくる。ふつうの人の話し声が、音の配置によっては音楽にもなり得るんだという驚きがある。ちょっと不安げだったり悲しげだったりもする。気軽には聞き流せない、魂に訴えかけてくるようなものを感じる。