2016年2月27日土曜日

『リスクのモノサシ』中谷内 一也

 NHKブックス。副題『安全・安心生活はありうるか』。
 母乳のダイオキシン問題、環境ホルモン、鳥インフルエンザ、アメリカ牛のBSE問題等々、世の中にあふれるリスク問題は数多い。その中には、実際にはほとんど被害がなかったにもかかわらず世間を大いに揺るがした問題もあれば、逆に大きな被害が出ているにもかかわらず世間にはあまり気にされることのない問題もある。それはおそらくはリスクというものが正当に評価されていないからだ。ではなぜそういうことが起きるのか。それは、マスコミ報道の問題でもあり、専門家の問題でもあり、それらを受け取る一般市民の問題でもある。本書はそれらの原因を考察し、どうすれば適切にリスクに向かい合うことができるのかについて、いくつかの提案をする。
 そのひとつが「リスクのモノサシ」である。あるリスクを考えるときには、それと一緒に「リスクのモノサシ」が提示されていると、それがどのくらいのリスクであるのか判断しやすい。
 本書では、このモノサシ以外にも、安全と安心の違いや、安心は信頼と関連が強いこと、信頼はどうやったら得られるのかなどについても考察しており、リスクと安全・安心全般についての著者の考え方を知ることができる。様々な事例を専門用語に置き換えているだけのような類書とは違って、一般の人の目線に合わせて、わかりやすくリスクについて論じているところに好感が持てる。良書だと思う。

『横井のつぼ!(2016)』横井珈琲

 昔からある横井のブレンドのひとつ。
 苦味系の飲みやすいブレンド。ナッツ入りダークチョコレートっていう感じ。冷めてくるとやわらかい感じに変わってくる。シングルオリジンのコーヒーより大分安いので、ふだん飲みコーヒーとしていいコーヒーだなあと思う。『いつものさんばん』、『いつものいちばん』も好きだけど、これもいい。

工房 横井珈琲』札幌市西区発寒9条11丁目2-11(地図

2016年2月20日土曜日

『Make Someone Happy』Sophie Milman

 2008年。ジャズヴォーカル作品。
 ソフィー・ミルマンのアルバムは3枚持っていたのだけれど、このデビューから2作目に当たるアルバムはたまたま持っていなかったので、この機会に購入してみた。
 曲調はバラードからボサノバ、ロック寄りのものまでバラエティに富んでいるけれど、全体的な印象としてはやや軽めの聴きやすい曲が多い。ソフィーの魅力はどっしりした低音の声が生み出す迫力のある歌にあると勝手に思っていたのだが、そういうタイプの曲はあまり入っていなかった。アルバム全体のバランスは悪くないのかもしれないけれど、私にはちょっと物足りなかった。

『暗記しないで化学入門』平山 令明

 講談社ブルーバックス。副題『電子を見れば化学はわかる』。
 電子の動きに注目し、化学結合や化学反応を理解できるように解説している。共有結合についての説明が詳しいが、配位結合、イオン結合、金属結合についても触れ、原子間に働く力として、静電相互作用、ファン・デア・ワールス力、水素結合、疎水相互作用などについても解説している。この辺あたりまでは随分と取っつきやすい。
 しかしこのあと化学反応の説明に入ると、とたんに難しくなる。ラジカル反応を皮切りに、アルコールやベンゼン環などの有機化学反応について、電子の動きを使った説明を試みる。最後にはDNAや酵素についても触れている。確かにこれらのことを理解していれば、必要以上の「暗記」はしなくてもいいのかもしれない。でもこれを理解するのはかなりハードルが高いと感じた。裏表紙には「わからない高校生、必読の入門書。化学嫌いなあなたの、化学の見方が変わります。」と書いているが、化学嫌いの人はこの本を読んでもよくわからないと思う。化学がある程度好きで、丁寧に本書の内容をなぞっていく力のある人なら、さらに深い知識を得ることができるだろうが。私は学生の頃化学は好きだったが、この本の終わり近くをめくっていると、読むのが何だかいやになってきてしまった。ある程度の基礎知識を求められる本。

2016年2月17日水曜日

『美術館の舞台裏』高橋 明也

 ちくま新書。副題『魅せる展覧会を作るには』。
 著者は三菱一号館美術館の初代館長(今も)で、オルセー美術館の立ち上げに関わったり、国立西洋美術館で働いていたこともある人。そんな彼が、豊富な経験を元に美術館の舞台裏を明かしてくれる。
 美術館のルーツ、学芸員のしている仕事、独特な日本の展覧会事情、展覧会づくりの裏側、美術作品を守るためにしていること、これからの美術館等々。美術品の値段の決まり方みたいな話もある。いろいろな切り口から美術館の仕事について触れていて、とてもおもしろい。ただ、新書という制約からかあまり深いところまでは切り込んでいないので、ああ、その話もっと聞きたい、と思うことが多々あった。特にこれからの美術や美術館のあり方について触れている章では、駆け足感が否めなかった。
 それにしても学芸員のしている仕事がこんなにも大変だとは知らなかったのでびっくりした。最近美術展のはしごをしたりしていたのに、また行きたくなってしまった。

2016年2月14日日曜日

『SPARK』上原ひろみ・ザ・トリオ・プロジェクト

 2016年。上原ひろみ(ピアノ、キーボード)、Anthony Jackson (contrabass guitar), Simon Phillips (drums)。
 かっこいい。この3人の構成でアルバムを作るのは今回が4回目。いつもながらの複雑なリズムと構成にピアノの音をいっぱい詰め込んだ曲に圧倒される。こんなに複雑なのに、ふつうに聴いている分には意外にキャッチーな感じで、自然と彼女らの音楽の中に入っていってしまうのが不思議。ぐいぐい押してくるかと思えば、さーっと引いていくときもあり、ドラマ性がある。上原ひろみがすごいピアノを弾くのはもちろんなんだけど、それをサポートするアンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスもすごくて、ぴったりと息の合った演奏を聴かせてくれる。個人的にはサイモンのドラムがとても好き。アンソニーは昔矢野顕子と一緒に札幌に来てくれていたので、馴染みな感じがする。ここ何年も来なくなってしまったけれど。
 このアルバム、いいです。

2016年2月11日木曜日

『平山郁夫展』北海道立近代美術館

 2016年2月6日~3月21日。副題『遙かなるシルクロードと北海道』。
 平山郁夫の作品だけで成り立っている美術展ではない。平山の絵やスケッチが4分の1から3分の1、そして残り3分の2ほどは、平山が保護、収集したアフガニスタンやシルクロード美術コレクションから成っている。
 平山の作品でいえば、やはり1番目を引くのは、オレンジ色が印象的な『パルミラ遺跡を行く・朝』と、青が印象的な『パルミラ遺跡を行く・夜』であろう。この対をなす作品が一面の壁に並んでいるさまは壮観である。ほかには、完成作品と同サイズで描かれた下絵である大下図が、製作過程を知る上で興味深かった。平山の描く仏像は、静けさがありながらも生き生きと見えるのがいい。また、1965年に北海道を回ったときに描かれたスケッチブックも数点展示されていた。
 シルクロード美術については、ヘレニズム・ローマ文化の影響のあるガンダーラから出土されたものが多かった。彫りの深いきりりとした仏像は日本のそれとは違っておもしろい。
 後年、文化財保護にも尽力した平山郁夫の活動を振り返ってみたような展覧会。

北海道立近代美術館』札幌市中央区北1条西17丁目

2016年2月10日水曜日

『20周年ベスト』栗コーダーカルテット

 2014年。
 グループ名の通り、リコーダー中心のインストゥルメンタル。ピタゴラスイッチの音楽といえばピンとくるだろうか。栗コーダーカルテットのアルバムは1枚持っているつもりでいたのだけれど、CD置き場をいくら探しても出てこない。私の勘違いだったのだろう。というわけで、初めて彼らのアルバムを買った(たぶん)。
 オリジナル曲20曲の入った1枚と、カヴァー曲20曲の入った1枚の計2枚のCDが入ったアルバムだ(初回限定盤だと、これにクリスマスライブのDVDも入ってくる。)。小学校や中学校で習ったリコーダーも、プロの手にかかるとこんなにお洒落になるんだと思った。クラシック関係だとリコーダーの曲もあるんだろうけれど、ポップス系のリコーダーってほかにはあまり聞かない。オリジナルとカヴァーでは、オリジナルの方が断然好きだった。カヴァーはなんか元のメロディの制約があって、無理してる感じがした。オリジナルの方がすっきりとして、すんなりと耳に入ってきた。
 昨年、メンバーの近藤さんがグループを抜けたので、カルテットじゃなくなるのかなとかいろいろ考えたりもして。実家に眠っているソプラノリコーダーとアルトリコーダーを吹きたくなった。

2016年2月8日月曜日

『「偶然」の統計学』デイヴィッド・J・ハンド

 早川書房。松井信彦 訳。
 ロトくじに2回連続で1等に当選する。二人のゴルファーが連続でホールインワンを達成する。一生のうち7回雷に打たれる。そんなほとんどあり得なさそうな偶然の出来事が実際に起きている。これは一体どういうことなんだろうか。
 実はそれはほぼ確実に起こることなんだよということを、この本は解き明かしてくれる。難しい数式なんてまったく出てこない。出てくるのは著者のいういくつかの「ありえなさの原理」だけ。不可避の法則、超大数の法則、選択の法則、確率てこの法則、近いは同じの法則の5つ。これらの法則を使うだけで、前出の例のほか、株価の大暴落、聖書の暗号、タコによるワールドカップの勝敗予測、カジノでの大もうけ、生物の進化など、さまざまなありえなさそうな出来事が説明できてしまう。なるほど、そういうことだったのか。
 偶然っていうのは実は必然と同じ意味なのかもしれない、なんて勘ぐってしまいそうになってしまう本。

2016年2月7日日曜日

『ボッティチェリ展』東京都美術館

 2016年1月16日~4月3日。
 会場に入ると、いきなり『ラーマ家の東方三博士の礼拝』が目の前に現れる。中央上部に聖母子を配した安定した三角構図で、登場人物も多い。右下にはボッティチェリ本人と思われる自画像も見える。絵全体からあふれる存在感に圧倒される。
 この展覧会では、ほとんどがボッティチェリ、師であったフィリッポ・リッピ、その子のフィリッピーノ・リッピの作品で占められている。1番目を引くのはもちろんボッティチェリのもので、前述の『ラーマ家の東方三博士の礼拝』のほか、『聖母子(書物の聖母)』、『バラ園の聖母』、『アペレスの誹謗(ラ・カルンニア)』などに目を奪われる。これらよりもやわらかい筆致で描かれた『書斎の聖アウグスティヌス(あるいは聖アウグスティヌスに訪れた幻視)』なんかもいい。フィリッポ・リッピとボッティチェリの絵には不思議な立体感(3D感)があって、つい引き込まれてしまう。この二人に比べると、フィリッピーノ・リッピの作品は柔和な雰囲気に覆われていて、『聖母子、洗礼者ヨハネと天使たち』などがよかった。
 これらの作品は15世紀というとても昔のルネサンス期に描かれたものだが、今でもその輝きは失われていない。

東京都美術館』東京都台東区上野公園8-36

『英国の夢 ラファエル前派展』Bunkamura ザ・ミュージアム

 2015年12月22日~2016年3月6日。
 19世紀中頃のイギリスに突如として現れたラファエル前派。古典的な画風で、題材も神話や聖書、戯曲などからとっていたりして、同じ時代のフランス印象派とは一線を画している。しかしそれらのストーリー性豊かな写実的な絵には、独特の魅力が宿っている。
 ラファエル前派というと、ロセッティやバーン=ジョーンズらも有名だけれど、個人的にはジョン・エヴァレット・ミレイが好きだ。精緻な筆遣いが醸し出す、えもいわれぬ雰囲気がいい。そんな中でも、特に『春(林檎の花咲く頃)』、『良い決心』、『ブラック・ブランズウィッカーズの兵士』がよかった。
 ミレイ以外では、 光と影の対比が印象的だったダニエル・マクリースの『祈りの後のマデライン』、古典的ながらなぜか気になるアルマ=タデマの作品群、耽美的で時間の表現がおもしろいジョゼフ・ムーアの『夏の夜』などがよかった。
 ラファエル前派は特別好きな絵ではないけれど、何だか気になってしまう流派です。

Bunkamura ザ・ミュージアム』東京都渋谷区道玄坂2-24-1

『フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展』森アーツセンターギャラリー

 2016年1月14日~3月31日。
 17世紀のオランダ絵画の中でも特に風俗画はとても好きなジャンルで、しかも今回はフェルメールの『水差しを持つ女』が展示されるということで、行かないわけにはいかないと思った。この絵はそんなに大きな絵ではないけれど、その微妙な光や静かさ(ちょっと風のささやきが聞こえてきそうな静けさ)の表現が見事で、まわりの空間をも飲み込むようだった。決して写真のようではないのだけれど、その存在感はすごかった。それと双璧をなすように飾られていたのが、レンブラントの『ベローナ』だ。これは大きな作品で、すぐ近くで見るとさっと描いたようなのに、少し離れるととても真に迫っていて、圧倒的な存在感を誇っていた。フェルメールとレンブラントに関してはそれぞれこの1枚のみの展示だったが、ほかにも見所はあった。
 風俗画では、ピーテル・デ・ホーホの『女性と召使いのいる中庭』がとてもよかった。テル・ボルフの『好奇心』も目を引いた。ライスダールの風景画には抜群の安定感があった。サーンレダムらの建築画というジャンルは、これまであまり注目したことがなかったので、おもしろいと思った。とても精緻な静物画もあった。この頃の静物画はいかに本物そっくりに描くかという努力があったらしいが、リアルだけれど写真のようではないというところが興味深かった。肖像画では、やはりフランス・ハルスのものがいい。モデルの性格までも絵の中に表現してしまう力量には恐れ入った。
 とても見所の多い展覧会である。

森アーツセンターギャラリー』東京都港区六本木6-10-1森タワー52階

『出久根育展』ギャラリーハウスMAYA

 2016年1月25日~2月6日。
 プラハを拠点に活動している画家あるいはイラストレーター(実のところ私には画家とイラストレーターの区別がつかないのだ)。私は絵本の絵でしか見たことがないけれど、挿絵などの仕事もしているようだ。
 以前からこの人の絵の実物を見てみたかったので、ちょっと家からは遠いけれど足を運んでみた。大きな通りから少し中に入ったところにたたずんでいるこのギャラリーは思いのほか小さかった。そしてこの長方形の単純な造りのギャラリーの中に飾られていた彼女の作品もまた、思っていたよりも小さかった。だけどこんな小さな絵に、あんな大きな世界が広がっていたんだ。物憂げな心がどこか遠くに行ってしまったかのような顔をした、一見無表情にも見える子供たち。それが岩肌のようなマチエールの彼女の描く色彩や背景の中に入ると、何だかとても広くて深い世界のただ中にいるような感じがしてくる。この不思議な感覚が心地よい。

ギャラリーハウスMAYA』東京都港区北青山2-10-26