2015年8月30日日曜日

『珈琲完全バイブル』丸山 健太郎

 ナツメ社。
 コーヒーについての蘊蓄や小ネタから、コーヒー豆のこと、コーヒーの淹れ方などまで、幅広く、そしてある程度まで深く丁寧に解説している。全編カラーで写真が多く、とてもわかりやすい。
 コーヒーを淹れる器具はいろいろな会社からさまざまなものが売られているけれど、その代表的なものについて淹れ方をきちんと説明してくれているのはうれしい。また、コーヒーの代表的な産地、農園についての記述も結構多い。最近よく耳にするスペシャルティコーヒーについても丁寧に触れている。焙煎やカッピングについても簡単ではあるが書いてある。アレンジコーヒーや、コーヒーと合うスウィーツのレシピなど、ストレートコーヒーだけじゃない楽しみ方も教えてくれる。トーストに合うコーヒーはどんなコーヒーなのかだとか、和菓子に合うコーヒーはどんなコーヒーなのかというフードペアリングについて書いてあるのもおもしろい。
 コーヒーをとことん極めたいという人には物足りない記述もあるかもしれないけれど、ふつうにコーヒーを楽しみたいという人には十分すぎるくらいコーヒーのことが詳しく書いてある。コーヒーをただ何の気なしに飲むのに飽きてきて、もっとコーヒーについて知りたいと思った人には最適な本。

『Live in Japan』Justin King

 2015年。ジャスティン・キング。2011年に行われた日本公演を収録したライヴ・アルバム。『With You』のみライヴ録音ではなく、ジャスティンが組んでいる「King Radio」による演奏で、ヴォーカルも入っている。この曲以外はすべてソロギター。ギター2本で弾いているように聞こえる曲もあるが、ルーパーを使って1人二重奏を行っている。
 ピエール・ベンスーザンを思わせる叙情的な曲や、民族音楽っぽいもの、タッピングを駆使した技巧的なものなどいろいろなタイプの曲が揃っていて、観客を飽きさせない。曲も演奏もとてもいいと思う。ただ、ラインくささというか潰した感じというかそんな感じの音になっているのが残念だ。音質やダイナミックさでいえば、やっぱりスタジオレコーディングの『Le Bleu』『丘からの眺め: From the Hill』の方が好きだ。このアルバムはライヴ感を楽しむためのアルバムなのだと思う。割り切ってしまえば聴いていて楽しい。ボーナストラックの『With You』が、やわらかにこのアルバムを締めくくってくれる。

2015年8月29日土曜日

『凡文を名文に変える技術』植竹 伸太郎

 文春文庫。
 カルチャーセンターでの文章教室の生徒の作品をネタに、どうやったら文章がよくなるか解説している。文章といっても、メールや日記、小説、評論、報告書などいろいろあるが、この本では主にエッセーを対象としている(と思う。はっきりそうとは書いていないが)。
 てにをは、句読点、文法など細かいところから、文章全体の構成に至るまで、文章をわかりやすく伝えたり、興味深く読ませたりするために気をつけた方がいいことについて、たくさん指摘してくれている。文法的に正しい日本語を使わなければならないことはもちろんのこと、どうすれば読者を引きつける文章を書けるようになるのか、丁寧に教えてくれる。 タイトルのとおり技術的な話が多いが、中には感覚的なものも多少交じっている。
 私はエッセーをほとんど書かないが、この本はブログの文章などエッセー以外の文章を書く人にも大いに参考になると思う。この本を紹介している私の文章自体が本書に書かれていることを実践していないことはさておき。

2015年8月25日火曜日

『Growing Up With the Impressionists』

 Sotheby's Publications。副題『The Diary of Julie Manet』。翻訳・編集:Rosalind de Boland Roberts and Jane Roberts。
 ウジェーヌ・マネとベルト・モリゾの一人娘であるジュリー・マネの日記である。ウジェーヌ・マネは画家のエドゥアール・マネの弟。ベルト・モリゾは印象派の女流画家で、私の好きな画家のひとりでもある。そんなジュリー・マネの、14歳から21歳までに書かれた日記が翻訳されている。西暦でいうと1893年から1899年にあたる。
 彼女は印象派の人々と深い親交があった。マネはもちろん、ルノワール、モネ、ドガなど。ほかに著名人では、マラルメ、ヴァレリーなどとも親しかった。 そんな人たちと関わりを持ちながら、自身も絵を描いていた。この日記には、彼らとの交遊のほかに、絵画や文学、音楽などの芸術の話題や、ドレフュス事件などの社会問題などについても書かれている。絵画についての冷静な分析には驚かされる。
 この日記が書かれたのは父親の死後で、この日記を書いている途中で母親も亡くし、親代わりでもあったマラルメも亡くしている。本書には、彼らに対する愛情が強く表れており、心が痛む。
 日記は、ドガの弟子であったエルネスト・ルアールとの結婚の直前に終わっている。結婚後しばらくしてから日記を再開したようだが、結婚前とは違い、敬虔なクリスチャンとして、内省的な記述になっていったという。
 本書は、ひとりの少女による、印象派の内部から社会を眺めた貴重な記録である。

2015年8月19日水曜日

『科学哲学入門』内井 惣七

 世界思想社。副題『科学の方法・科学の目的』。
 科学哲学史にあらわれるトピックをなぞりながら科学哲学を解説する、という点では入門書なのかもしれない。しかし、この本は単純に科学哲学を紹介する本ではない。著者の立場が色濃く表れていて、かなり突っ込んだ議論をしている。
 ポパーの反証主義、デュエム、ハンソンらの観察の理論負荷性、クーンのパラダイム論といった、科学哲学の教科書には必ず出てきそうな理論に対し、かなり手厳しい批判をしている。著者は、ベイズ主義や反実在論といった立場に近い考えをしていると感じた。また、確率・統計と科学哲学との関係について多く記述しているのも印象に残った。
 本書はやさしい本ではない。本当に入門書なのか、とも思った。じっくりと腰を据えて読むつもりなら悪くないのかもしれない。しかし、軽い気持ちでこの本に手を伸ばすと痛い目に遭う。

2015年8月16日日曜日

『コスタリカ・シン・リミテス・ゲイシャ/イエロー・ハニー(2015)』横井珈琲

 Costa Rica Sin Limites Geisha。コスタリカのシン・リミテス農園のコーヒー。ゲイシャは品種名。イエロー・ハニーは生産処理方法で、レッド・ハニーよりも豆のまわりの粘液質を少なめに処理している。
 やわらかな酸味にまろやかな口当たり。口の中にふぁあっと広がる花のような香り。それとともにフルーティな甘さも感じる。とても上品な雰囲気を持っているコーヒー。これはおいしいです。ゲイシャと聞くと、つい飲んでみたくなる私でした。

工房 横井珈琲』札幌市西区発寒9条11丁目2-11(地図

2015年8月15日土曜日

『Travels』Jake Shimabukuro

 2015年。ジェイク・シマブクロ。
 ウクレレを持って世界を旅してきたジェイクが、その旅をテーマに2年ぶりのオリジナル・アルバムをリリースした。ロック、フォーク、伝統音楽、クラシックなどいろいろな音楽に影響を受けて、バラエティに富んだアルバムになっている。
 個人的に好きだったのは、ウクレレ1本で奏でたトラディショナルの『Hi'ilawe(ヒイラヴェ)』、ウキウキな『Passport』、メロディがよく響いてきれいな『Oama』、ウクレレ1本でここまでやれるんだという感じの『I'll Be There』、緩急があって雰囲気のよい『Dinner & a Movie』など。ほかにも、ブラザーズ・フォアみたいで懐かしい感じのする歌もの『Everything Is Better With You』とか、バッハ風の『Interlude I』、 ロックテイストの強い『Low Rider』、セルフカヴァーの『一期一会』、日本盤ボーナストラックの『涙そうそう』など、おもしろい曲が揃っている。
 いろんなタイプの曲が交ざっているのに、ウクレレの音という共通点があるせいか統一感があって、バランスのいいアルバムになっている。1時間以上収録されているけれど、飽きさせない。

2015年8月9日日曜日

ホテルにて

 この日、都心は気温37.7℃を記録した。ふだん北国で過ごしている私にとって、この重苦しくむせかえるような熱気は経験したことのないものだった。コンビニで買ったアイスコーヒーの氷も、急いでホテルまで持ち帰らないと、すぐにでも溶けてしまいそうだ。こんな日は、せめて日が沈んだあとには冷房の効いたホテルの部屋でゆったりと過ごしたい。

『Butterfly Blue』Halie Loren

 2015年。ヘイリー・ロレン。
 やわらかくてあたたかい歌声が心地よいジャズヴォーカル作品。ほんのちょっぴりハスキーっぽいところもあって、力がうまく抜けているのに感情豊かに聴かせてくれる。カヴァーが多いけれど、オリジナルもある。ゆったりした曲もアップテンポな曲もいい。全体的にとても聴きやすい。声と歌い方が好き。

『反知性主義』森本 あんり

 新潮選書。副題『アメリカが生んだ「熱病」の正体』。
 反知性主義は、反インテリ、もっと正しくいうと、インテリが権力や権威と結びつくことに対する嫌悪の感情といえばいいのだろうか。今のアメリカにもそういう部分が多く見られるのであろうが、本書は現代のアメリカについては多くのページを割いていない。アメリカにヨーロッパから入植してから何度か起きた信仰復興運動(リバイバリズム)の歴史的背景になどについて主に書いている。だから「熱病」というのもたぶんリバイバリズムのことを指すのであろうし、反知性主義というのもそのリバイバリズムのうねりを生み出すに至ったアメリカ人の精神構造を指すのであろう。
 リバイバリズムは、従来特別に教育されたインテリしかなれなかったキリスト教の伝道師(例えば牧師など)に変わって、十分な教育を受けていない伝道師による信仰を復興させる運動といっていいのだと思う。信仰は特別な人に起こるのではなく、誰でも平等に起きるものなのだということである。アメリカでのキリスト教の普及は、このリバイバリズムと切っても切り離せない。アメリカにキリスト教が入ってくると、ヨーロッパとは違う信仰の形ができあがった。それはどのようにできあがり、どういう形のものだったのか。本書に主に書かれているのは、このアメリカにおけるキリスト教の歴史である。中身は結構入り組んでいて、プロテスタントとかピューリタニズム、クエーカー、バプテスト、ユニテリアンなど、いろいろな派閥が絡んでいてややこしい。
 おもしろいと思ったのは、アメリカにおける政教分離の精神が、この反知性主義とも関係していることだった。自由と平等を重んじる精神もまた、反知性主義とは無関係ではない。本書の帯には「いま世界でもっとも危険なイデオロギーの根源」と書かれているけれど、必ずしも筆者は反知性主義をこのような主義主張だとは捉えていないのではないかと思う。反知性主義にはプラスマイナスどちらの面もあるのだろうけれど、筆者の考えはどちらかといえば中立のように感じた。そして私も、反知性主義は必ずしも悪い面だけなわけではないという印象を持った(ちょっと嫌だなと思う点はあったにしても)。いずれにしても、アメリカにおいてどうしてキリスト教がこれだけ普及しているのかだとか、アメリカ人の平等意識の高さはどのように生み出されたのかを考えるとき、本書の内容はその答えの一端を教えてくれる。

2015年8月8日土曜日

『旅の風景 安野光雅 ヨーロッパ周遊旅行』東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館

 2015年7月7日~8月23日。
 旅先のスケッチを元にした絵や絵本の原画など、ヨーロッパの風景を描いた100点あまりの水彩画を集めている。
 スケッチでは、意外と鉛筆の線を生かして描いていることに初めて気づいた。また、淡い色調の中に、たまにどきっとするほど彩度の高い色が使われていたりして、その対比がおもしろい。色についていえば、緑色の多彩さに驚く。灰色や茶色に近い緑から青に近い緑まで、たくさんの緑が使われているのに、どれも自然な感じを失っていない。
 『旅の絵本』シリーズの絵は水彩とインクを使って描かれているが、その細密さにびっくりする。スケッチは真似をして描くこともできるかもしれないが、これは真似できない。
 展覧会に行くと、つい分析的に絵を見てしまったりするけれど、私は単純に彼の水彩画が好きです。
 あと余談ですが、今年の劇場版名探偵コナン『業火の向日葵』に出ていたゴッホの『ひまわり』は、この美術館にあるんですね。

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館』東京都新宿区西新宿1-26-1損保ジャパン日本興亜本社ビル42階

『エリック・サティとその時代展』Bunkamura ザ・ミュージアム

 2015年7月8日〜8月30日。作曲家エリック・サティと、彼と関わりのあった芸術家たちの作品を集めた展覧会。
 『ジムノペディ』の流れる館内に入るとまず出迎えてくれるのは、モンマルトルでの演しもののポスターの数々。やはりロートレックやスタンランのポスターが目を引く。ジュール・シェレやジュール・グリュンも悪くはない。
 直筆の楽譜も展示されている。サティは楽譜上に演奏者への指示のような単なる感情の発露のような独特の詩をよく書き込んでいるのだが、その実物が見られるのはうれしい。特にサティが作曲した曲とシャルル・マルタンによる挿絵のコラボである『スポーツと気晴らし』のシリーズが、イラストと楽譜全21曲分が揃って展示されているのがすごい。これらの曲についてはビデオも流れているので、ブランコやゴルフやテニスなどのスポーツを彼がどう表現したのかがよくわかる。
 彼が音楽を担当したバレエ・リュスの公演『パラード』についての資料も多い。これにはコクトーやピカソも参加している。これについても、再現公演ビデオが館内で流れている。
 ほかにも、マン・レイやブラック、ブランクーシ、ピカビア、ドランなど多くの芸術家の作品が展示されている。ただ、ちょっと物足りなかった。彼の華やかな部分だけでなく、もう少しエリック・サティの人物像をあぶり出すような展示がほしかった。『スポーツと気晴らし』はとてもうれしかったけれど。

Bunkamura ザ・ミュージアム』東京都渋谷区道玄坂2-24-1(地図)

2015年8月5日水曜日

『Holes』Louis Sachar

 Yearling Newbery。
 無実の罪で捕まえられて、干からびた湖の畔にある更生施設に入れられる主人公。そこでやることといえば、くる日もくる日も自分の背丈ほどもある穴を掘ることの繰り返し。何人もの子供たちが、そこで毎日ひとりひとつずつ穴を掘らされる。なんでこんなことをやり続けなければならないんだろう。主人公はその理由に気づきはじめる。そして事件は起きる。この灼熱の太陽の下、誰の助けも借りず生き抜かねばならない……。さらに最後には驚きのどんでん返しが。
 伏線がいくつもある。それは100年以上も前にこの湖で起きた出来事だったり、主人公の祖先の話だったり、捕まる原因となった罪のことだったり。一見関係なさそうなそれらのいくつもの話が、最後にぴたっとつながる。まるでジグソーパズルの絵柄が揃ったかのように。

2015年8月1日土曜日

『DUO』荘村清志、福田進一

 2015年。日本におけるクラシックギターの第一人者といってもいい、荘村と福田による贅沢なデュオ。
 クラシックの曲だったり映画音楽だったりと、よく知られている曲が半分以上を占めている。『ニュー・シネマ・パラダイス』や『カヴァティーナ』なんかは元々好きな曲だったりする。
 しかしこのアルバムの一番の聴きどころは、Hakujuギターフェスタ委嘱作品である次の3曲なのではないだろうか。その3曲とは、F.サイによる『リキアの王女』、R.ディアンスによる『ハクジュ・パルス』、久石譲による『Shaking Anxiety and Dreamy Globe』である。ドラマチックでダイナミックでトリッキーですらあるこれらの曲を聴くためだけでも、このアルバムを買ってみる価値はある。