2012年12月30日日曜日

『ふしぎなキリスト教』橋爪大三郎×大澤真幸

 講談社現代新書。
 二人の対談形式で話が進んでいく。大澤が質問を含めた司会進行を担当している。「一神教を理解する」「イエス・キリストとは何か」「いかに「西洋」をつくったか」の3部構成になっていて、全体としてキリスト教入門といった体をなしている。歴史を紐解きながら、ユダヤ教、イスラム教、仏教、儒教、神道などとくらべたキリスト教の特殊性を語り、自然科学や資本主義が生まれる背景をキリスト教と絡めながら解いていく。キリスト教が西洋社会を形作る上で大きな役割を担っていることがよくわかる。
 わかりやすい。科学を信じるから奇蹟を信じる。宗教法がないから自由に法律を作れる。キリスト教と関係のないと思われるところまでキリスト教の精神は及んでいる。など、明快な答えを出してくれている。入門者にはありがたい。
 とはいえこんな理解で本当にいいんだろうか、という疑問もわいてくる。根拠はないのだが、単純化しすぎているような気がする。ネット上の違う評者の感想を読むと、著者の事実誤認もあるようだ。ただしキリスト教に対する著者の事実誤認が、著者のキリスト教に対する理解不足に結びついているかどうかはわからない。だからこの本はこの本で、ある程度正しい理解に基づいているのかもしれない。
 どうも私の感想は歯切れが悪い。実のところ微妙な読後感なのだ。キリスト教に対してよくわからない私にとって、この宗教に対する新たな見方を提示してくれる反面、内容にイラッとすることが多かったのも事実なのだ。キリスト教軽視(あるいは蔑視)ともとれるような発言が目につく。特に大澤がひどい。個人的には友人のクリスチャンには読ませたくない本だが、新書大賞2012の第1位をとったほどだから、クリスチャンでも読んでる人は結構いるのだと思う。評価は割れるのではないか。

2012年12月29日土曜日

『神的遊戲』張懸

 2012年。『games we play』チャン・シュエン。
 雑居ビルのならぶうらびれた狭い路地に夕焼けが差し込み、これから夜の闇が訪れるというそんな瞬間を切り取ったような頽廃的なイメージ。このアルバム全体を覆うこんな印象を決めているのは初めの3曲、『玫瑰色的你』、『瘋狂的陽光』、『藍天白雲』の影響が大きいのだろうと思う。彼女の気取らない自然な声にピアノとギターの音が効果的に響く。
 それでもアルバムの後半の3曲はいくぶん明るさを取り戻し、『我想你要走了』 なんかは穏やかながらもクールで、好きな曲だ。力強さを感じさせる『艶火』もいい。そして最後の『日子』ではギターの弾き語りで締めくくる。
 中国語はわからないが(台湾の人です)、初めて彼女の歌声を聴いてから、ずっととりつかれたままでいる。そういえばこのアルバムももう4枚目。

2012年12月24日月曜日

『Mim FTGFOP1 2012-DJ18』LUPICIA

 ミム。
 インド・ダージリンの北西、ダージリン・イーストにあるミム茶園の春摘み紅茶。香りがさわやかで春っぽい。若さを感じる。味は意外とどっしりとしている。少し渋みが残る。もっとも、これは煎れ方のせいかもしれない。このお茶の茶葉はほかのものよりも小さめだ。それでついポットに入れる茶葉の量が適量よりも多めになってしまってるんだと思う。もう何度も飲んでいるのに、毎回同じ失敗をしてしまう。本来ならきちんと煎れられるようになってから記事にすべきだと思うのだが、あと少ししか残っていないので、あわてて書いている。今度は気をつけよう。

LUPICIA

2012年12月23日日曜日

『語りえぬものを語る』野矢 茂樹

 講談社。
 「語りえぬものについては、沈黙せねばならない。」とは、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の最後の命題である。ただ示されうる。これに対して野矢は「語りえぬものを語る」というのだから、手に取らないわけにはいかない。野矢は『論理哲学論考』の呪縛から抜け出ようとしている。ウィトゲンシュタインがその後『哲学探究』で行ったように。
 この本はある雑誌に掲載された26編の連載と、それに対する74編のコラム風の註からなっている。内容は、相対主義の話、相貌論の話、懐疑論について、私的言語について、隠喩について、自由と決定論について、というように多岐にわたっている。でも一貫して、相対主義者としての野矢の姿が全編にわたって立ち現れているように感じる。「絶対」は絶対にない、という相対主義者の発言をどのように解釈したらよいのかについての議論(相対主義者が「絶対」という言葉を使ったらおかしいんじゃないの?という指摘についての反論とか)など、素朴に楽しい。その中で「相対主義は語りえない」などと書かれていたりするものだから、本書のタイトルとの整合性に疑問符をつけたくなったりもするけれど、野矢の真意はたぶんそんなところにはないのであろう。そこを読み解くのは意外と難儀だったりするのだけれど。
 これまでなされてきた多くの哲学論議と違って、野矢は突飛な結論には飛びつかない。あくまで現実に寄り添って、日常感覚と齟齬を来さないように丁寧に議論を進めていく。そのためかどうかはわからないけれど、ズバッという爽快さはなく、何か曖昧模糊とした煙の中で雲をもつかむような歯切れのなさを感じないでもない。たぶん相貌論なんかはその最たるものだろう。でもそれは野矢の良心なんだと思う。一般の人が感じているように世界を見る。そしてそのように世界を解釈する。その姿勢に好感を持つ。
 難しいところは結構あるけれど、取り上げているテーマはおもしろいし、語られる言葉もやさしい(内容がやさしいわけではない)。「猫は後悔するか」「思考不可能なものは考えられないか」「そんなにたくさんは考えられない」「私にしか理解できない言葉」「うまく言い表せない」「科学は世界を語り尽くせない」といった興味深い章が並んでいる。私は十分楽しめた。ただ、核心を言い得ているか微妙なところに物足りなさを感じる人はいると思う。好き好きだけれど、私はいいと思う。

2012年12月19日水曜日

『Live in Paris』Diana Krall

 2002年。ダイアナ・クラール。パリでのライブ録音。
 ダイアナのアルバムは『The Very Best of Diana Krall』 (私の記事)しか持っていなくて、BGMとしていいな、くらいの感想しか持っていなかった。でもこのジャズライブはいい。彼女のいい具合に力の抜けた歌声と、同じく彼女の弾く洗練されたピアノと、アンソニー・ウィルソン(Anthony Wilson)のギターとジェフ・ハミルトン(Jeff Hamilton)のドラムスというシンプルな構成。
 アルバムの始まりは、軽快なリズムに乗ってダイアナの声が駆け巡る『I Love Being Here With You』。そしてクリスマスっぽい『Let's Fall in Love』やボサノヴァ調の『The Look of Love』などに続いていく。『'S Wonderful』、『Fly Me to the Moon』、『Just the Way You Are』(Billy Joelですね)なんていう有名どころもある。でも私が一番好きだったのは、静かなバラード『A Case of You』でした。
 ベストアルバムよりもこっちの方が気に入った。

2012年12月17日月曜日

『気ままにアートめぐりー印象派、エコール・ド・パリと20世紀美術』ブリヂストン美術館

 2012年10月26日~12月24日。ブリヂストン美術館所蔵のコレクションからの展覧会。一部にエジプト、ギリシャなどの古代美術も展示されているが、基本的には印象派以降の美術を集めている。その中には日本の近代美術や戦後の抽象絵画なども含まれていて、展示物の幅はかなり広い。こんなにたくさんのコレクションがこの美術館にあるんだ、と正直驚いた。何しろお邪魔したのは初めてだったから。
 この雑多な作品群の概要をここで紹介するのは私の手に余るのであきらめて、ここではこの中で特に気に入った作品を列挙するだけにとどめたい。このリストから展覧会の雰囲気をつかんでもらえたら、うれしい。

・シスレー(Alfred Sisley)『サン=マメス六月の朝』:少し雑に感じないでもないけれど、いかにも印象派といった感じなのがよい。
・マネ(Edouard Manet)『自画像』:ささっと描いたように見えるが、なかなか味がある。
・モネ(Claude Monet)『睡蓮』:鉄板ですね。
・カイユボット(Gustave Caillebotte)『ピアノを弾く若い男』:特有のなめらかな質感がいい。
・ルドン(Odilon Redon)『神秘の語らい』:ルドンって色が素敵。
・ルオー(Georges Rouault)『郊外のキリスト』、『ピエロ』:黒の使い方がうまいと思う。画面から飛び出てきそうな立体感がある。敬虔なキリスト教徒であるのがよく伝わってくる。
・安井曾太郎『風景』:淡い感じ。
・モディリアーニ(Amedeo Modigliani)『若い農夫』:この人の描く人物はいつも私の思いの及ばぬことを考えている。
・藤田嗣治『猫のいる生物』:野菜などが転がったテーブルの端からひょうきんな猫が顔を出している。こんなユーモアのある絵も描くんだ。
・佐伯祐三『テラスの広告』:画面にあふれんばかりの踊り狂った文字がいい。黒もいい。
・ピカソ(Pablo Picasso)『ブルゴーニュのマール瓶、グラス、新聞紙』:キュビスム作品。キュビスムの造形には無条件で惹かれる。
・ピカソ『腕を組んですわるサルタンバンク』:新古典主義時代の作品。ギリシャ彫刻のような主人公が魅力的。
・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)『ディエゴの胸像』:彼らしい細く平べったい顔。人物の本質に迫ろうとして削って削ってをくり返してこうなってしまうらしい。あり得ない造形なのに、実に人間らしい。
・ザオ・ウーキー(ZAO Wou-Ki)『21.Sep.50』:薄い土色の淡い感じが好き。
・ザオ・ウーキー『07.06.85』: 上部の青と下部の白の対比がいい。それぞれの色にはまるで生き物のような質感があって、何ともいえない。

 ほかにもいい作品はいっぱいあったけれど、個人的にはこんなのがよかった。近代絵画の好きな人にはお薦め。

ブリヂストン美術館』東京都中央区京橋1-10-1(地図)

2012年12月16日日曜日

『シャルダン展ー静寂の巨匠』三菱一号館美術館

 2012年9月8日~2013年1月6日。Jean Simeon Chardin。
 日本で初めて開かれたシャルダン(1699-1779)の個展。教科書的なものに載っているシャルダンは自画像が多いと思われるが、実際には静物画と風俗画を多く描いた。若い頃と晩年は静物画、その間は風俗画を主に描いていたようだ。
 静物画は落ち着いた色合いで、静謐さが漂っている。やわらかい筆致ながら、光と影のバランスがすばらしい。陶器の表情の描き分けも見事である。私の好みからすると若い頃のものよりも晩年の作品のほうがいい。『銀のゴブレットとりんご』、『カーネーションの花瓶』、『木いちごの籠』なんかがいい。
 静物画ももちろんいいのだが、私は風俗画のほうに強く惹かれた。まるでフェルメールが再来したかのような静かな光と影の織りなす世界には、目を奪われる。『病後の食事(別名:思いやりのある看護人)』、『セリネット(鳥風琴)』、『デッサンの勉強』、『良き教育』といった作品に惹かれた。特に後者2つの対作品がいい。『羽根を持つ少女』、『食前の祈り』はレプリカ(?)も展示されており、見比べてみるとおもしろい。そういえば『羽根を持つ少女』もよかった。
 前回東京に来たときに見逃してしまって、心残りだった。今回無理をしてでも見に行った甲斐があった。この展覧会が開かれている三菱一号館美術館の建物も素敵だった。

三菱一号館美術館』東京都千代田区丸の内2丁目6-2(地図)

2012年12月9日日曜日

『パナマ・エリダ飲み比べセット』横井珈琲

 Panama Elida。コーヒーの果実を生豆にするときの処理方法(プロセス)の違う豆を3種類飲み比べることができるセット。今回は70セット限定だという。運がよかった。以下、それぞれの感想。

●フリィウォッシュト・プロセス(Fully Washed)
 コーヒーの果肉をはがし、粘液質を発酵させて水で洗い流す方法で、一般に広く用いられている方法だそうだ。すっきりとした雑味のない味わいで、ダークチェリーのような甘酸っぱさが口の中に広がる。苦味はほとんどなく、やや酸味系。
●ハニー・プロセス(Honey)
 コーヒーの果肉をはがし、粘液質をつけたまま乾燥させる方法。ブラジルではパルプトナチュラル(Pulped Natural)と呼ばれたりするらしい。フリィウォッシュトに比べるとちょっと雑味が入ってくるが、逆にそれがコーヒーにやわらかさをもたらしていて、よりまろやかになっている。アプリコットとか青リンゴを思わせる。酸味も少し弱くなっていて、3種類の中では一番好き。
●ナチュラル・プロセス(Natural)
 コーヒーの果実をそのまま乾燥させる方法。これは強烈。生臭さと泥臭さが混じったような味と香り。ちょっと南国のフルーツの感じもする。もしこの強烈さがなければ、味もしっかりしていて私でもおいしく感じるのだと思うけど、私は苦手。でもこの独特の感じは、はまる人ははまるんだと思う。変わったコーヒーが好きな人は挑戦してもいいかも。

 おもしろい企画だと思う。楽しんで飲んでます。

工房 横井珈琲』札幌市西区発寒9条11丁目2-11(地図

2012年12月8日土曜日

『Grand Ukulele』Jake Shimabukuro

 2012年。
 正直なところ、もうジェイクはいいかな、と思っていた。自分の中でのウクレレブームも去ってしまって、ウクレレマガジンも最近は購入していなかった。今回のアルバムも惰性で買ってみただけだった。
 ところがどうだろう。これが実にいいのだ。音にキレがあって透明感があって、曲にノリがあって艶があって、ウクレレが歌っている。ジャカソロ系で激しめの『Ukulele Five-O』、『Rolling in the Deep』、『More Ukulele』。さわやかな感じで朝や海を感じさせる『Gentlemandolin』、『143』(以前のアルバムにも入っている)、『Fields of Gold』。ひとつひとつの音を丁寧にきれいにまとめ上げた『Missing Three』。硬軟取り混ぜた『Island Fever Blues』。スウィングがかった『Gone Fishing』。そして『Music Box』は派手さはないけれど、技術的にはすごいことをやっていて、音楽的にも好きな一曲。バライエティに富んだ曲の最後には、『Akaka Falls』の素敵な旋律に心が洗われる。
 久しぶりにウクレレを弾いてみようか。