2011年3月30日水曜日

『欧文活字』髙岡 重蔵

 烏有書林。
 ハガキよりもほんのちょっぴり大きいだけの、とても小さな本。欧文活字や組版に対する厳しい態度の中にも、著者のつくる図版には遊び心も含まれていて、思わずにやけてしまう。
 もともとこの本は、1948年に印刷学会出版部から発行された『工場必携シリーズA4 欧文活字』というものだった。印刷工場で働いている人向けに書かれたものだ。それを何度か復刻を繰り返し、図版等も新しくして、このような形で改めて世に出ることとなった。本書に書かれていることはごく基本的なことなのかもしれないが、とても大事なポイントをしっかりと押さえているように感じた。活字の構造から、書体の説明、使い方まで。例として挙げられている書体はどれも今も使われているもので、古さはまったく感じない。内容もまた、古臭さを感じさせないところがすごい。付け足しの話題ではあるが、著者が相談役を務めている会社、嘉瑞工房のこともちょっと知ることができる。
 ただひとつだけ不満を挙げるとすれば、「新装版刊行にあたって(雑談より)」の中の高岡の談話は載せなくてもよかったんじゃないかな、と思う。内容的には面白いものがあるが、この本の他の部分から浮いている。せめて口語体をそのまま載せるんじゃなくて、きちんと編集しなおせばよかったのに。

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2011年3月27日日曜日

『Wu Wei』Pierre Bensusan

 1993年。ピエール・ベンスーザン。『Spices』(私の記事)と同じく、長らく廃盤だったのが、昨年ボーナストラック3曲を交えてリイシューされた(下に示したリンクのうち、amazonはmp3ダウンロードのみです。プー横丁ではきちんとCDが売られています)。これでようやくライブ盤とベスト盤以外のピエールの全アルバムが揃った。嬉しい。
 半分以上の曲にヴォーカルが入っていて、そうでない曲でも彼のコーラスが入っているものが多い。優しくやわらかな歌声が耳に心地よい。ドラムやベース、サックス、フルートなどいろいろな楽器が使われているものの、全編落ち着いていて、穏やかな雰囲気にあふれている。裏で鳴っているギターのバッキングも、よく聴いてみるとすごく凝っているのに、そうとは感じさせずに自然なサポートに徹している。
 全体的にとても気に入った。ギターの高音のメロディが美しい1「Wu Wei」や10「Autour Du Jour En 80 Mondes」が特に好き。それ以外ももちろん良いけれど。

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2011年3月24日木曜日

『コロンビア・サンセバスチャン』丸美珈琲店

 柔らかい酸味。くすんだミルクチョコレートのような香り。ナッツを口に含んだときのような後味。飲み始めはすっきりとしていながら、冷めてくると、まろやかになりつつ酸味は強くなっていくという多面性を持った味わい。
 久しぶりに雑味の少ないコーヒーを飲んだような気がする。この味は何度か口にしたことがあるが、香りはあまり記憶にない。なんとなく古い革製品のイメージ。

(3/27追記:好みから言えば、苦手です)

丸美珈琲店』札幌市中央区南1条西1丁目2番地松崎ビル1F(地図

2011年3月20日日曜日

『ヒューマンエラーは裁けるか』シドニー・デッカー

 東京大学出版会。Sidney Dekker。芳賀茂、監訳。副題「安全で公正な文化を築くには」。
 題名よりも副題の方が本書の内容をうまく表していると思う。
 医療や航空業界のような専門分野では、日々多くの失敗(ミス、エラー)が起こっている。そして、たまたまそのうちのひとつが重大な事故につながったとき、司法介入によりミスを起こした本人「だけ」が刑事訴追されるということが、たびたび起きている。その事故が起こるのに重要な役割を演じたであろう周辺の状況、システムの構造等は温存されたままで。
 著者のいう公正な文化では(以下、引用)、
「失敗への対応として、次の二つを両立するような説明を行うことを重要視している。
・説明責任に対する要求を満足させること。
・学習や改善に貢献すること。」
ヒューマンエラーを起こした本人のみに責任を押し付けることは、このどちらにも寄与しない。たとえば事故調査委員会などの調査では、これらの説明をきちんと行う傾向にあるが、司法介入はそれらの調査の妨げになる。また、エラーを今後の改善につなげるためには、日常のエラーを日々報告して組織内などで情報を共有、利用していく必要があるが、そのエラーを報告することで訴追の可能性があると思えば、報告自体がなされなくなるという悪影響も起きる。ここで、司法が介入することによって、うやむやになっていた事実関係が整理され、真実が明らかにされるのではないか、との疑問が出てくるかもしれない。しかし著者は、多くのページを割いて、実際にはそうなっていないことを説明する。真実はひとつとは限らず、裁判所はそれらの真実のうちのひとつを、もっともらしくストーリーに仕立て上げているに過ぎないというのだ(余談だが、名探偵コナンのセリフ「真実はいつもひとつ」というのは間違っていると思う)。このように、司法処理について著者は厳しい。じゃあどうすればいいの、ということに関して、著者はいくつかの解決策について本書の中で検討しているので、ぜひ読んでいただきたい。
 事故が起きたとき、どのような方法で対応するのが公正な文化といえるのか、著者は我々に厳しく問うている。

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2011年3月19日土曜日

『文字をつくる 9人の書体デザイナー』雪 朱里

 誠文堂新光社。
 若いデザイナーからベテランのデザイナーまで、9人の書体デザイナーそれぞれについて、インタビュー記事、文字をつくる工程、組見本の3点に焦点を当てて、紹介している。インタビューでは、生い立ちから文字に興味を持つことになったきっかけ、文字に対する思いなどが語られる。私はこの部分が結構楽しめた。文字のつくるアプローチの仕方はデザイナーによってまったく異なるのだが、向かっている方向性がほぼ同じだということは興味深い。私は、片岡と小塚の文字のつくり方が非常に参考になった。以下に、本書で取り上げられているデザイナーの名前と、本人のつくった代表的書体を示す。

鳥海修:ヒラギノシリーズ、こぶりなゴシック、游書体ライブラリー
杉本幸治:本明朝
鈴木功:AXISフォントシリーズ、ドライバーズフォント
西塚涼子:りょう、りょうゴシック、かづらき
大平善道:ZENオールド明朝ファミリー、ZENアンチック、ZEN角ゴシックファミリー
片岡朗:丸明オールド、iroha gothic、丸丸gothic
小林章:Clifford、ヒラギノ明朝従属欧文、AXISフォント欧文
小宮山博史:平成明朝体
小塚昌彦:新ゴ、小塚明朝、小塚ゴシック

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2011年3月18日金曜日

『No.9』可否茶館

 やや苦めのコーヒー。横に並べて飲み比べたわけではないが、なんとなく『可否茶館1971』(私の記事)というブレンドに似た雰囲気がある。でも雑味が多くてあまり好きではない。
 ただしこのコーヒー、いつも店に置いてあるわけではない。私はこの豆を買ったまさにその時しか、店頭で見たことがない。後にも先にも。もしかすると豆を入れた袋に書いてある「TRIAL COFFEE」というのが、その答えになるのかもしれない。今は売られていないが、以前可否茶館では『No.15』という豆を売っていた。試験的に作ってみたブレンドは、こうして番号が振ってあるのかもしれない。『No.15』は何年間も売られていたはずなので、これは成功例だったのだろう。

可否茶館HP

2011年3月17日木曜日

『世界でもっとも奇妙な数学パズル』ジュリアン・ハヴィル

 青土社。Julian Havil。松浦俊輔、訳。
 手ごわかった。何箇所か理解できないところがあった。たぶん高校数学ですべてを理解するのは無理(習わない記号が説明抜きで出てくるから)。それだけに、数学マニアの人々なら楽しめるのではないかと思う。身の回りにある出来事から拾ってきたパズルから、純粋に数学的に不思議なパズルまで、全部で18のパズルが紹介されている。
 純粋に数学的なものとしては、数えられる無限と数えられない無限の話、調和級数、オイラー級数、べき乗のべき乗、グッドスタイン数列、バナッハ=タルスキーの逆説といった話題が取り上げられている。
 もっととっつきやすい身の回りから拾ってきたパズルとしては、次のようなものがある。モンティ・ホール問題(記事「『ベイズな予測』宮谷隆」で過去に説明しています)や、トランプマジックのネタばらし。ある道路網に抜け道を1本作ったとたん渋滞が発生してしまう話(逆に言えば、渋滞している道路のうち1本を通行止めにしたら渋滞がなくなる、ということ)。ある人間集団をAとBに分け、それぞれの集団の薬の効果は新薬Xの方が新薬Yよりも高いのに、それを合計して計算した効果は新薬Xよりも新薬Yの方が高くなる、というシンプソンの逆説。ビルの下の方でひとつのエレベーターを待つとき、上からエレベーターが来る確率の方が下から来るよりも高くなるのに、エレベーターの数が増えると、どちらの確率も同じになってしまう、という話。トランプのポーカーの手は、作りづらい手の方が強くなるようになっているのに、ワイルドカード(ジョーカー)を入れると、作りやすい手の方が強くなってしまうという現象。
 このように、いろいろと興味深い話題にあふれている。そして実際に面白い。でも読みこなすのは苦労するので、ご注意を。

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2011年3月15日火曜日

『シュプレーム』

 SUPRÊME。フランスはノルマンディ産の、白カビタイプのチーズ。「最高」という意味のこのチーズの名前は、パリのチーズ職人がつけたという。
 さっぱりしていてクセがなく、とても食べやすい。口触りは滑らかだけれど、そんなにやわらかくはない。塩味は控えめなのに味はしっかりしていて、おいしい。カマンベールよりも好き。

2011年3月14日月曜日

『Ticklin’ the Strings』Sweet Hollywaiians

 2009年。スウィート・ホリワイアンズ。戦前のスウィング、ジャズ、ハワイアン、ラグタイムなどを演奏する4人組。ウッドベース、ウクレレ、ハワイアンスティール、ギター、マンドリンなど。ヴォーカルもたまに入る。関西出身のバンドなのだが、日本でというよりは欧米での人気の方があるらしい。日本人だと思われていない、という話も。
 雰囲気は、簡単に言うと、東京ディズニーランドのカントリーベア・シアター。ノリがいい。世界観が完成されていて、突っ込みどころがあまりない。その手の音楽が好きな人にはうってつけだと思う。ぜひ聴いてみて下さい。
(この半月くらい聴いていたのですが、ここ数日は聴く気分ではありませんでした。そんな明るい音楽です)

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2011年3月13日日曜日

『デザインの教室』佐藤 好彦

 エムディエヌコーポレーション。副題「手を動かして学ぶデザイントレーニング」。
 私はおそらくこの本から、著者が意図したものの10分の1程度しか自分のものにしていない。実際には手を動かさなかったから(本書には手を動かすための道具としてAdobe Illustrator CS以上に対応したCDROMが収められているが、私にはそれらを扱うパソコン環境がなかった)。さらに言えば本書の中で「この本で扱ったのは、「デザインの半分」です」と述べられていることを考えると、私がこの本から学んだものはデザインの5%ほどである。
 しかしこの5%は大きい。それほどまで、この本はデザインの本質(のひとつだと私は思いました)をわかりやすく説明している。帯に書かれている文言が内容をうまくまとめているので転載すると、この本は「基本的な図形や文字、色による平面構成から、実践的なレイアウトまで。理論+実践で学ぶ、デザインを始めたい人のためのトレーニングブック。」である。とっかかりは鉛筆と消しゴムを並べることに始まり、最終的にはグリッドシステムあるいはそれを超えたデザインのトレーニングまで、コンパクトでありながらも適確な指導を受けることができる。デザインの意図を言葉で説明できることは重要、との記述はいつでも心に留めておきたい。
 個別のレッスンの中では、カラーパレットの作り方、利用の仕方を学んだのは初めてのことで、目から鱗だった。ただ、書体の説明のところに誤植が多かったのは残念だった(今売られているものは直っているのだろうか)。
 本来であれば、手を動かしながら本書を読むべきであろうが、読むだけでも楽しい本。

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東北地方太平洋沖地震

 2011年3月11日、午後2:46以降に起きた数回の地震。マグニチュード9.0。

 本州に住んでいる数人の知人の安否を確認するのが精いっぱい自分のできることだった。今も災害が収まっていないが、私はテレビやインターネットの情報を指をくわえてみているばかり。こんなことでいいのか、もっとやらなければならないことがあるんじゃないか、と落ち着かない私に、友人がこんな声をかけてくれた。

「非常時に、なにひとつ情報をもたないものは、みだりになにもしないということも、ひとつの「できること」なのだそうです。」

 今は待とう。自分のできることが何かについては常にアンテナを張り巡らせたうえで、私は私の日常を過ごそう。ほら、電気を節約することも自分のできることじゃないか。

(今後のブログの記事では、あえてこの災害のことには触れないでおこうと思う。時事ネタには触れない、というのが私の今までの基本スタイルだったから)

2011年3月10日木曜日

ストロベリーティー

 一人分(カップ2杯程度)の作り方(あくまでS-AKI風)。
1.いちごを2個用意する。
2.切り口の形のよさそうな部分を3枚ほど輪切りにして、カップに入れる。
3.カップの中にワイン(白かロゼ)をちょっと垂らしておく。
4.ポットに大匙1杯ちょっとの茶葉を入れる。
(今回はニルギリを使ったが、キャンディとかのクセのないものがいい)
5.ポットに、2で余ったいちごを手でつぶして入れておく。
6.あとは普通に熱湯で紅茶を入れ、3のカップに注ぐ。

 今回はウェッジウッドのワイルドストロベリーのカップを使ってみました。見た目も香りもいいです。フレッシュないちごの香りが鼻をくすぐります。味は好みが分かれるところだと思う。いちごらしさはあまりない。フレッシュなフルーツを使うと、ちょっと渋みが強くなる、というのは日々感じるところ。甘くて香りの強いいちごを使ったほうがいいと思う。隠し味で、レモン汁をちょっと垂らしてみたり、ミントを使ってみたりすると、アレンジの幅が広がる。
 追記。しばらく放っておいて冷めた紅茶を飲んでみたら、とてもおいしかった。香りは弱くなるけれど、アイスティーにした方が味は良いのかもしれない。

2011年3月9日水曜日

花20110304

 フリージア。
 どうしていつもそんなにどぎつい色の背景にしてしまうのか、ということを、よく言われる。そのせいでせっかくのきれいな花が台無しだと。それに対しては、こうやって描きたいから、という風にしか答えられないのだけれど、強いて言えば、ボタニカルアートのように植物学的な精確さをもって見たままの花を描くことに興味がない、ということなのかもしれない。まだ自分のイメージしたようには描けないのだけれど。
 ただ今試行錯誤中。

2011年3月8日火曜日

『タイポグラフィ』デザインの現場BOOK

 美術出版社。「タイポグラフィ(英: Typography)は、活字(あるいは一定の文字の形状を複製し反復使用して印刷するための媒体)を用い、それを適切に配列することで、印刷物における文字の体裁を整える技芸である。」(Wikipedia 2011/3/8「タイポグラフィ」より)
 タイポグラフィに興味のある人は結構楽しめる内容だと思う。写真や図版が多いので、書き手の意思がよくわかる。ただ、初心者が真面目にこれを読むと、かなり打ちのめされるかもしれない。プロの厳しさもまた、よく伝わってくるのだ。気軽に手を出せる分野じゃないな、と。「和文書体なら少なくとも500書体くらいは頭の中で文字の形が分かるようにしておきましょう。」なんて言葉が平気で出てくる。
 「トップデザイナーに聞く文字の学び方、選び方」では、葛西薫、副田高行、木村裕治、祖父江慎、有山達也、岡本一宣、永原康史、菊地信義の話が聞ける。本や雑誌の装丁、広告など、わりと身近にあるデザインが例として挙げられているので、楽しめると思う。その他には、タイポグラフィが学べる学校の紹介だとか、マンガの吹き出しについてなどの軽い話題などもいくつか載っていて、飽きさせない。さらに、嘉瑞工房や小林章による欧文組版の話なども取り上げられているのが嬉しい。「自分でつくった欧文書体を販売したい!」という記事には、制作意欲をくすぐられた(今のところ作る予定はないのに)。
 話題が豊富で総花的だが、私は面白かった。

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2011年3月6日日曜日

『正山小種』LUPICIA

 ラプサンスーチョン。Lapsang Souchong。「福建省武夷山のふもと、星村の燻製紅茶。独特の香りが欧州で人気です。」

 ふつうこの漢字表記で「ラプサンスーチョン」と読むけれど、「しょうざんしょうしゅ」と読んでもいいと思う。中国茶としては後者の読み方でオーケーだから。
 松の燻焙をしみ込ませており、かなりクセのある香りがする。スモークチーズの匂いを強烈にして紅茶に混ぜ込んだ感じと言えば、ちょっとは伝わるだろうか。それでも、このルピシアのラプサンスーチョンの燻香は、やや控えめのような気がする。ただ、紅茶自体の味も少しぼやけていて、すっきりしていないのが残念。
 今まで何種類かのラプサンスーチョンを飲んだけれど、数年前に口にしたウィッタード(ウィタードとも。Whittard of Chelsea)のものが飲みやすくておいしかった。ちなみにこのウィッタード、ちょっと前に経営破綻したと思っていたのに、きちんとサイトが残っていた。復活したんだろうか。

LUPICIA

2011年3月5日土曜日

『ROQUEFORT CAFÉ』

 ロックフォールカフェ。大通り駅北洋大通りセンタービッセ出口から札幌駅の方向へ向かい、ラーメンの「味の時計台」の手前の路地を右に折れ、左手に見えるビルの2階にある。ちょっとわかりにくいかもしれない。
 店に入ると、正面には重厚感のある木のカウンターがどんと構えている。その手前にはゆったりとした椅子がずらり。その他にテーブル席が5、6以上はあろうか。店内はカントリーチックな雰囲気にあふれている。気のせいか年配の客が多い。時折、気の良さそうなひょろっとした長身のマスターと客との掛け合いが聞こえる。終始談笑の声が辺りを埋めている。私のようにひとりで来ている客はいないようだ。落ち着いて読書をする感じでもないので、そこそこで店を出る。この店は潰れない。
 実は私はロックフォールカフェの隣にあったはずの喫茶店を目当てに来た。『カフェ・ラ・トゥール』。こちらは静かな喫茶店だった。寂しいことに店を畳んでしまったようで、違う形態の店舗に変わっていた。人と同じく、店にも出会いと別れがある。

『ROQUEFORT CAFÉ』札幌市中央区北1条西3丁目古久根ビル2F(地図

2011年3月4日金曜日

『現象学ことはじめ』山口 一郎

 日本評論社。副題「日常に目覚めること」。
 本書は、現象学を提唱したフッサールによる哲学を中心に据えた、現象学の入門書である。優しく丁寧な語り口で、ゆっくりと順序立てて説明してくれてはいるのだが、内容は決して易しくはない。入門書とはいえ、この本を理解できるのなら、次は専門書にあたってもいいと思えるくらい、核心に迫った本である。
 私には現象学がどんな学問なのかを説明する力はないが、本書の冒頭には、「現象学は、特に私たちの日常生活を重視する哲学といえます。」と述べられてる。実際、章の立て方を見てみると、「数えること」「見えることと感じること」「時がたつこと」「変わることと変わらないこと」「想い出さずに、想い出されるということ」「気づくことと気づかないこと」といった具合に、日常生活を過ごしていく上で接している世界をテーマに据えていることがよくわかる。
 この本の何が難しいのか、というと、現象学独特の思考方法にもあるが、専門用語の多さによるものが一番である。もちろんそれらの用語は本書の中できちんと説明されてはいるのであるが、それを理解せずに読み進めていくと、例えば「原地盤での時間化が、原触発を通して生起し、この原触発は、原初の匿名的間身体性として表現される本能指向性によって生じます。」といった文章の意味がわからなくなってしまう。これはどんな本を読むときでも言えることなのかもしれないけれど。
 私はこの本を1回読んだだけでは現象学のことをよく理解できなかった。しかし、最初からゆっくりと真剣に取り組み、本の中を行きつ戻りつしつつ丁寧に読んでいけば、現象学の一端に触れることができるように書かれた本だと思う。私が読んだのは主に通勤列車の中でだったというのは失敗だった。世によくあるなんちゃって入門書の類ではないので、現象学をきちんと学びたい人には良い本だと思う。私もそのうちもう一度読んでみたい。
 蛇足ですが、個人的に一番わからなかったのは、発生的現象学の脱構築の方法論の妥当性と、時間化について述べられた一連の説明の二つでした。

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2011年3月2日水曜日

『In-A-Gadda-Da-Stephen』Stephen Bennett

 2010年。スティーヴン・ベネット。前作『Good Wood』(記事)と同様、ほとんどの作品を100年前に制作されたハープギターで弾いている(15『You Really Got Me』のみバリトンギター)。重奏感と低音の響きがたまらない。
 これはカバーアルバムである。ちょっと古めではあるが、すべて、(そこそこ)有名なロックミュージックから選曲されている。おいしいリフなども取り入れて、原曲の雰囲気に比較的忠実なアレンジが成されており、ギター1本で重厚なバンドサウンドを再現している。The Doorsの1「Light My Fire」、Jimi Hendrixの3「The Wind Cries Mary」、Creamの6「White Room」など、全15曲。
 個人的には、Procol Harumの4「Whiter Shade of Pale」、The Rolling Stonesの7「Honky Tonk Women」あたりが気に入りました。7なんて笑っちゃうくらいストーンズです。アコギなのにエレキサウンドに聞こえてしまうのが不思議。
 ちょっと懐かしい気分になる1枚。

(ハープギターのイメージがわかない方、このアルバムのジャケットがそのギターです)
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