2013年7月28日日曜日

『Ways』岸部 眞明

 2013年。ソロギター・アルバム。
 一聴、美しいギターの音がすーっと僕の身体を満たし、穏やかな心地よい気分にさせてくれる。でもアルバムは『Sailing』、『SLでGo!』のようなちょっと元気な曲で始まる。チャッチャッという爪の音がリズムを刻む。曲はさわやかに颯爽と駆け抜けるのに、不思議と心は穏やかに岸部の音世界に入り込んでいくという逆説。
 中盤以降は静かなきれいな曲が多い。例えば『Raindrops』、『昭和ロマンス』、『流星』などのような曲だ。速めのアルベジオが印象的な『Heartstrings』、『夜明け前』もいい。その合間にさわやかな『息吹』や激しめの『Black Baccara』なんかがバランスよく入り、ゆったりとしながらも清涼感のある『Go Home』でアルバムを締める。
 このアルバムは大好きです。でもAmazonにはありません。岸部のホームページや『Shop at Pooh Corner』 で購入できます。

岸部眞明のHP
Shop at Pooh Corner

『フェルメール 静けさの謎を解く』藤田 令伊

 集英社新書。
 フェルメールは「静謐の画家」とも呼ばれている。では彼の絵はどうしてそんなに静かなのか。これまで、このことについて真正面から取り組んだ分析はほとんどなかった。本書はそこにスポットを当てて、フェルメールの絵を読み解いていく。使っている色の種類、ひとつの絵の中に含まれる色の数、素材の選び方、光、現実感と非現実感の共存、構図、絵の持つ意味、時代背景。そんな様々な観点からフェルメールの静けさに迫っていく。
 著者がフェルメールの描いた絵の中で「静か」な作品だと見なしているのは、実はそれほど多くない。 『窓辺で手紙を読む女』、『牛乳を注ぐ女』、『窓辺で水差しを持つ女』、『青衣の女』、『真珠の耳飾りの少女』ほか数点といったところだろうか。そして明らかに著者は他の作品よりもこれらの作品の方が価値が高いと見なしている。著者はこれらの絵が大好きなのである。それはそれで構わないのだが、その著者の思いがあまりにも強く本書には現れているので、読んでいてちょっと引いてしまう。もしかするとそれは文体のせいなのかもしれない。「静けさ」を扱った本のわりに、文体は騒がしく、そして軽い。論点は比較的しっかりしていると思うが、それぞれの論点についての掘り下げは浅く、雑な印象を受ける。この本が新書という形態を取っている以上、しょうがないことなのだろうか。少し残念な気がする。

2013年7月21日日曜日

『NU LÀ-BAS』Tété

 2013年。日本盤のタイトルは『裸のままで』。テテは、セネガル生まれのフランス人。3年ぶりのアルバム。
 今回はポップ色が強いと思う。キャッチーなメロディで耳に残る。明るい曲、静かな曲、はたまたビートルズを思わせるような曲などいろいろあるが、それが明るい曲であってもどこか哀愁を感じさせるのは不思議な気がする。それはおそらく時折交ざるファルセットと特徴のある声のせいであるのだろう。この声とフランス語の歌詞が妙に合っていて、そこのところにまた惹かれる。
 暗い曲は私は苦手で、表題曲『NU LÀ-BAS(裸のままで)』だとか『La Bande Son de Ta Vie(君の人生のサウンドトラック)』のようなポップな曲のほうがいい。アコースティックな感じのする『Comment Te Dire(あなたにどう伝えよう)』の雰囲気も好き。

2013年7月15日月曜日

『ゼロからわかる経済学の思考法』小島 寛之

 講談社現代新書。
 著者は経済学を科学だと考えている。しかし他の科学、例えば物理学などに比べて全然進歩していない科学だともいう。なぜ進歩しないのか。それには経済学特有の難しさがあるらしい。経済学は物理学と異なり、法則の検証をするのが難しいというのだ。そして、今はそのような確立された方法論は存在しないが、本書で述べたような経済学の思考法を積み重ねていくことで、経済学に合った科学的方法論が見つかるのではないか、という希望的観測をもって、著者は本書を締めくくっている。
 本書ではミクロ経済学の「需要と供給の原理」について、ゲーム理論などを引き合いに出しながら解説している。説明は論理的で、簡単な数学の知識があれば十分理解できるように丁寧に展開している。ただし言葉遣いはやさしいものの、ちょっと理解に手間取るややこしい部分もあることはある。 本書を読んで一番驚きだったのは、経済学のとっかかりの説明のところで、最初に「お金を無視する」ことから始めていたところである。つまり物々交換の世界である。筆者はそこから始めて、最終的には「需要と供給の原理」を読者が理解できるところまで話を進める。若かりし頃、需要曲線と供給曲線の意味がよくわからず、図を丸暗記していたが、この本を読んでやっと腑に落ちた。
 本書には筆者の思いがいっぱい詰まっている。筆者の思いは、本書でいう経済学の思考法と密接につながっているわけだが、この思考法は必ずしも世の中の経済学者一般の思考法とまったく同じとはいえないのではないか。そんな感想を持った。ここでの思考法は筆者の考える思考法であって、一般のそれとは少しばかりずれがあるのではないか、という疑念である。私は経済学のことはよく知らないので、ことの真偽はわからない。でも世間の経済専門家の話を聞いていると、本書のような科学的思考法をしているとはどうしても思えないのだ。ここまで科学としての経済学の限界を見極めた思考をしているとは思えない。本書は経済学の思考法のひとつの理想型を提示しているのではないか。
 本書を読む限り、経済学が実体経済をきちんと説明できる日はまだまだ先の話だという感想を持った。将来そんな日がやってくるのを楽しみにして待ちたい。

2013年7月14日日曜日

『HERO』木村 大

 2013年。
 木村のギターはもうクラシック・ギタリストの枠にははまらない。ライナーノーツで間接的に述べているように、彼は「"クラシック・ギタリスト"というよりも、"いちギタリストなのだ"」。それは以前から何となく感じているところでもあって、彼の弾くクラシックの曲は力強く荒々しくて、逆にそれがクラシックとして聴くとどこか居心地の悪さともいえるものを感じさせて、私が彼のアルバムをあまり聴かない理由ともなっていた。しかしこのアルバムはどうだろう。往年のロック、ポップスのカヴァーからなる本作は、彼の一種独特の個性と見事にマッチして、すばらしい出来に仕上がっている。タッピング、ボディヒット、ライトハンドもいとわず、クラシック風なものからスパニッシュ、そしてニューエイジ系ともいえるほどまで、幅広い演奏を披露している。
 このアルバムを手に取ったのは、かつてオジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)のギタリストだったランディ・ローズ(Randy Rhoads)による『DEE』という小品が入っていたからだ。クラシック・ギタリストになりたかったともいわれるランディ・ローズの曲が、まさにクラシックのルーツを持つ木村によって弾かれるということが、何とも興味深かった。そして実際に聴いてみると、寒気がするほどいい。この曲はムソルグスキーの『展覧会の絵』のモチーフを含む『賢人(The Sage)』(EL&P, Greg Lake)と合わせて、本アルバムの中でも、よりクラシックっぽい仕上がりになっている。クラシックっぽいといえばスティング(Sting)の『Fragile』もそう感じたが、これは村治佳織ヴァージョンを先に聴いていたせいなのかもしれない。
 原曲の雰囲気を損なわない安定感が見られたのは、ミニー・リパートン(Minnie Riperton)の『Lovin' You』とエリック・クラプトン(Eric Clapton)の代表作『Change the World』(クラプトンが作った曲ではない)。『Lovin' You』では効果的にハーモニックスが用いられているが、その場所が押尾コータローによる同曲のカヴァーと同じメロディの部分だというのは偶然なんだろうか。
 かっこいい、と思ったのは、ヴァン・ヘイレン(Van Halen)の『Spanish Fly』、ジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)の『Purple Haze』、そして木村自身のオリジナル曲『earth』。『earth』はすごくいい。ニューエイジ系という感じだが、ジャンルと関係なくギターの魅力があふれている。これがクラシックギターで演奏されているとは信じられない。
 このアルバムはかなりお薦めです。

『パスキンの生きた時代』北海道立近代美術館

 2013年6月29日~9月23日。Jules Pascin(1885-1930)。
 「エコール・ド・パリ」と呼ばれた画家集団の一人としての評価をフランスにおいて得ていたパスキン。そんな彼の展覧会が「これくしょん・ぎゃらりい」で開かれている。実は北海道立近代美術館はパスキンを多く所蔵していることで知られており、たまにこのブルガリア生まれの画家の展覧会を開く。淡い色彩で描かれた、まどろみの中でけだるい様子をしている裸婦たち。パスキンといえばそういった油彩が思い浮かぶのだが、今回は聖書を題材にしたものや、素描、水彩、版画などいつもとは違った切り口の作品も展示されている。新約聖書からの『良きサマリア人』では、褐色や橙色を基調としながらも彩度の高いカラフルな色使いをしており、その奥行きのあるやわらかい雰囲気に心惹かれる。他に興味深かったのは、彼が10代の終わり頃から掲載していた風刺雑誌『ジンプリツィスィムス』の挿絵である。切り口が斬新でエスプリが利いており、ついニヤッとさせられる。
 同時開催の特別展『シャガール展』の混み具合に比べてこちらは閑散としているが、『シャガール展』のついでに20世紀初頭のパリの雰囲気にも脚を踏み入れてみてはいかがだろうか。

北海道立近代美術館HP

2013年7月13日土曜日

『シャガール展』北海道立近代美術館

 2013年6月29日~8月25日。Marc Chagall(1887-1985)。
 赤、青、緑、黄、紫、オレンジ・・・。マルク・シャガールとはつまりは色彩なんだ。そう感じた展覧会だった。愛や聖書という精神性もあるかもしれない。構図の巧みさ、ストーリー性もあるかもしれない。一見つたなく見える筆致の不確かさが醸し出す魅力もあるかもしれない。でも結局は色彩なんだ。そう思った。
 その輝く色彩が一番映えるのはステンドグラスにおいてなのだろうと思う。そして会場では実際にそれを見ることができる。『メッス大聖堂内陣北側薔薇窓:シンボルに囲まれたキリスト』である。青を基調とした花の形の断片に、時折オレンジや緑が交じる。光が壁から降り注ぐ。美しい。この作品を見られただけでも来た甲斐があるというものだ。
 この展覧会では、このステンドグラスの他にも、オペラ座天井画のための下絵、バレエ「ダフニスとクロエ」の衣装デザイン、リトグラフなどの版画類、彫刻や陶器など、様々なジャンルの作品が展示されている。しかしやはりその中でも目を引くのは、色鮮やかな油彩の、大きな作品である。青の印象の強い『「魔笛」の思い出』、赤い『ファエトン』、赤、緑、青とカラフルな『サン=ポールの上の恋人たち』・・・。
 そしてこれらの色彩の雨の中で酔いしれたあとは、もう一度作品の前に立ち、それぞれの作品に込められた深いメッセージを読み解いてみるといいのだと思う。

北海道立近代美術館HP

2013年7月7日日曜日

『横井の夏(2013)』横井珈琲

 毎年この季節になったら売り出される6月から8月の限定コーヒー。
 ボリビア、ブラジル、ブルンディの中煎りブレンド。豊かな香りで、ダークチョコレートのような味。飲んだ後に舌に残るえぐみというか余韻というか、それもダークチョコレートを食べたときと同じような感覚。おいしいです。でもキリッとした酸味や濃い苦味が好きな人は違う豆のほうがいい。これはやや苦味系の中性的な味。夏用のコーヒーとはいえ、冷たくするのではなく、温かいまま飲んだほうがいいと思う。横井珈琲ではアイスコーヒー用の豆を別に売っているわけだし。
 500グラム買ったけど、これがなくなったらもう1回くらい購入してもいいな、と思っている。わりと気に入った。

工房 横井珈琲』札幌市西区発寒9条11丁目2-11(地図

2013年7月3日水曜日

『Let's Face the Music and Dance』Willie Nelson and Family

 2013年。
 ウィリー・ネルソンの曲もあるけれど、ほとんどがカヴァー。きれいな曲が揃っている。ノリノリの曲はほとんどなくて、静かでゆったりした雰囲気を持つアルバム。私が持つウィリー・ネルソンのイメージの曲は『Matchbox』などごくわずか。いいとは思う。『Is the Better Part Over』、『You'll Never Know』、『Vous et Moi』や『Twilight Time』とか、結構好き。でもちょっと物足りない気がする。もっとクセがあってもいいかな。ちょっときれいにまとまりすぎている。悪くはないんだけど。